論文紹介:The efficacy and neural mechanism of acupuncture therapy in the treatment of visceral hypersensitivity in irritable bowel syndrome「過敏性腸症候群における内臓過敏症治療のための鍼治療の有効性と神経メカニズム」

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引用論文

Yang, Y., Wang, J., Zhang, C., Guo, Y., Zhao, M., Zhang, M., Li, Z., Gao, F., Luo, Y., Wang, Y., Cao, J., Du, M., Wang, Y., Lin, X., & Xu, Z. (2023). The efficacy and neural mechanism of acupuncture therapy in the treatment of visceral hypersensitivity in irritable bowel syndrome. Frontiers in Neuroscience, 17, 1251470. https://doi.org/10.3389/fnins.2023.1251470 

The efficacy and neural mechanism of acupuncture therapy in the treatment of visceral hypersensitivity in irritable bowel syndrome
「過敏性腸症候群における内臓過敏症治療のための鍼治療の有効性と神経メカニズム」

研究背景

過敏性腸症候群(Irritable Bowel Syndrome; IBS)は、慢性腹痛、腹部膨満感、排便形態の変化を特徴とする機能性胃腸障害であり、全人口の5〜22%に影響を及ぼすと報告されている。中でも腹痛の主因となる内臓過敏症(Visceral Hypersensitivity; VH)は、患者が医療機関を受診する最大の動機となる重篤な症状である。従来、5-HT₃受容体拮抗薬や非吸収性抗生物質、セクレトゴーグ(リナクロチドなど)といった薬物療法が用いられるが、効果は限定的であり、副作用や再発の問題も多い。そのため、薬物以外の補完代替療法として、古くから鎮痛効果が知られる鍼治療(針刺、電気鍼、灸などを含む)が注目を集めている

目的

本論文は、IBSモデル動物および基礎研究を対象に、鍼治療がどのような末梢・中枢メカニズムを介してVHを緩和するかを系統的にレビューし、鍼の有効性を支持する神経内分泌・免疫学的作用経路を総合的に整理することを目的とした。これにより、臨床応用へ向けたプロトコル標準化およびエビデンス構築の基盤を提供することを狙いとしている

レビュー手法

PubMedおよびWeb of Scienceを2003年1月から2023年2月の期間で検索し、「irritable bowel syndrome」「acupuncture therapy」「electroacupuncture」「moxibustion」など多岐のキーワードを用いて文献探索を実施した。690件の文献から、重複・要旨欠如・臨床試験・レビュー論文・研究テーマ非該当の論文を除外し、最終的に68件の基礎研究論文を抽出した(動物モデル・細胞モデル含む)。抽出後、末梢の感覚終末、脊髄・脳内受容体・イオンチャネル、グリア細胞、HPA軸関連経路の4つのカテゴリーに分類し、各メカニズムを詳細に検討した

主要知見

  1. 末梢神経メカニズム

    • 5-HT経路の調節:鍼刺激は腸管内のクロマフィン細胞(EC細胞)による5-HT過剰放出を抑制し、5-HT₃A受容体発現を低下させると同時に、抗炎症作用を有する5-HT₄受容体発現を上昇させる。これにより分泌亢進と蠕動亢進が抑えられ、下痢・腹痛の緩和が得られると報告されている

    • TRPV1活性化とグリア細胞抑制:一次感覚終末に発現するTRPV1チャネルを鍼刺激が活性化しつつ、腸管グリア細胞の過剰活性を抑制。これにより、サブスタンスPやCGRPといった疼痛関連神経伝達物質の局所分泌が低下し、末梢感作が軽減されると示唆されている

    • エンドゲノムオピオイド系の関与:鍼刺激によりエンドルフィンなどの内因性オピオイドペプチドの遊離が促進され、腸管レベルでの神経興奮が抑制される可能性が示されている。

  2. 中枢神経メカニズム

    • NMDA受容体抑制:脊髄後角および前部帯状回(ACC)におけるNMDAR(NR1, NR2A, NR2Bサブユニット)の活性化が鍼により抑制され、異常痛信号の伝達が遮断されることが報告された

    • P2X7・プロキネティン経路:脊髄および脳内グリア細胞におけるP2X7受容体やプロキネティン(PK2/PKR1, PKR2)経路を介して、神経炎症応答の制御が行われ、痛覚知覚および認知過程が調節される機序が示唆された

    • オピオイド中枢作用:エンドルフィンやSAP(preprodynorphin)系の誘導により、脳幹・大脳皮質レベルでの鎮痛信号が増強される側面がある。

  3. HPA軸および情動調節機構

    • CRH/ACTH/CORTの抑制:腹部経穴ST36(三里)やST37(上巨虚)へのEAおよび灸刺激により、視床下部–下垂体–副腎(HPA)軸関連ホルモンであるCRH、ACTH、コルチコステロン(CORT)の発現が抑制される。これがストレス応答の緩和を通じてVHを改善することが報告されている

    • 情動回路への入力:鍼刺激は扁桃体–中脳水道灰白質–島皮質経路を活性化し、BDNFやNPYの発現を促進することで、うつ・不安の併存症状を改善し、全体的なVH緩和に寄与する可能性がある。

作用機序の総括

これらの末梢・中枢・HPA軸経路は、鍼治療が神経–免疫–内分泌連関を介して「内臓過敏症」という多層的病態を統合的に緩和する機序を裏付ける。末梢では5-HTおよびTRPV1依存的シグナル経路が主に調節され、中枢ではNMDAR・P2X7・オピオイド経路が協調的に機能し、さらにHPA軸を介したストレス応答と情動制御がこれらを増強すると考えられる

臨床的インプリケーションと今後の課題

  • プロトコル標準化:ST25+ST37の組み合わせや、2〜10 Hzの低周波Sparse Wave EA、温度変動を伴う生姜灸などが頻用されるが、施術頻度・強度・モダリティ(針刺 vs. 灸 vs. 電気鍼)の最適化検討が必要である

  • 多施設二重盲検RCTの実施:動物実験の知見を臨床へ展開するため、プラセボ鍼対照を含む高品質RCTによるエビデンス向上が急務である。

  • 自律神経評価の導入:鍼刺激が交感・副交感バランスを回復する可能性が示唆されているが、自律神経機能評価(心拍変動解析など)の組み込みが望まれる。

  • 腸内細菌叢との相互作用:鍼灸が腸内細菌叢を改善し、免疫–神経–内分泌経路を介してVHを抑制するメカニズムの解明も、将来的な研究の方向性として期待される

使用経穴

本レビューでVH改善に頻用される経穴は主に以下の3穴である

  • ST25(天枢)

  • ST36(三里)

  • ST37(上巨虚)

これらの経穴は、腸管運動調節、分泌抑制、ストレス応答制御といった多面的作用を通じ、IBSに伴う内臓過敏症の改善において中心的役割を果たしている。

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■ 何故、Ankiは学習効率が高いのか

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ここでは、Ankiのシステムを使った「経穴リスニング暗記帳」が何故、学習効率が高いのかについて説明いたします。

– Ankiによる自動復習機能(分散学習)

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忘れる前に、Ankiが思い出させてくれる。

Ankiは、記憶の心理学的メカニズム――特にエビングハウスの忘却曲線の研究に基づき、「最適な復習タイミング」を自動で提示するシステムを備えています。

これにより、学習内容を忘れかけた絶妙なタイミングで再提示し、記憶を強化。最終的には長期記憶として定着させることが可能です。

  1. 復習しないと忘却が進行
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  2. Ankiが復習を促す
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  3. 記憶が強化される
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このような間隔反復(Spaced Repetition)の仕組みは、短期記憶のまま消えていくのを防ぎ、効率的で持続性のある学習を実現します。

🔺 最適な復習タイミングが、記憶の定着を飛躍的に高める。

– 能動的想起(テスト効果)による記憶の強化

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能動的想起(アクティブリコール)による記憶の強化

ただ教科書を読むだけの「受動的学習」では、情報はなかなか定着しません。
一方で、学んだ内容を自分の頭で思い出そうとする「能動的学習」では、記憶の定着率が格段に向上することが、数多くの心理学的研究で示されています。

この「思い出そうとする行為」そのものが脳内の記憶経路を再活性化し、情報へのアクセスを強化します。その結果、より強固で思い出しやすい記憶が形成されるのです。

左側:受動的学習(教科書を読むだけ) → 記憶の定着は限定的
右側:能動的学習(思い出そうとする) → 記憶の定着が飛躍的にアップ

🔴 記憶は「入力」ではなく「出力」によって強化される。

Ankiなどのテスト形式の学習ツールは、まさにこの能動的想起(Active Recall)の原理を活かした方法であり、記憶の強化に極めて効果的です。

– 複数の感覚を使うと、記憶はもっと強くなる

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マルチモーダル学習による記憶定着の向上

記憶をより深く、強く定着させるには、視覚だけに頼るのではなく、複数の感覚を同時に使う「マルチモーダル学習」が効果的です。

  • 👁 視覚情報:文字・図を見て学ぶ

  • 👂 聴覚情報:音声を聞いて学ぶ

  • 触覚情報:実際に身体に触れ、感覚を伴って学ぶ

これらの異なる感覚情報が脳内で統合されることで、記憶のネットワークが多層的に構築され、忘れにくくなるのです。

特に経穴の学習においては、
「見る」+「聴く」+「触れる」という三感覚の連携が極めて有効。

🔷 マルチモーダル学習で、記憶が深く刻まれる。
→ 経穴の学習には「見る」「聴く」「触れる」が鍵。

– 二重符号化理論 – 記憶のバックアップを作る

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二重符号化理論(Dual-Coding Theory)
― 記憶のバックアップを作る学び方 ―

学習した情報を視覚(文字·図)と聴覚(音声)の2つの経路で同時に取り入れることで、記憶の定着が強化されるという理論が「二重符号化理論(Dual-Coding Theory)」です。

👁 視覚情報(文字・図)
👂 聴覚情報(音声)

これらは脳内で別々のチャンネルとして処理·保存されるため、どちらか一方の記憶が弱まっても、もう一方から補完され、思い出しやすくなるという利点があります。

たとえば、音を忘れても文字を見れば思い出せる。
または、文字を忘れても音を聞けば思い出せる。

📌 文字と音声の両方で学ぶことで、記憶が二重に保存される。
つまり、記憶にバックアップが作られるような状態が生まれ、忘れにくくなるのです。

– 声に出して覚えると、記憶はもっと深く残る

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― 生成効果(Production Effect)とは ―

単に「読む」「聞く」といった受動的な学習に比べて、自分の声で情報を発する=生成する(能動的学習)ことで、記憶の定着率は大幅に向上します。

この現象は、生成効果(Production Effect)と呼ばれ、心理学的にも広く研究されています。

📖👂 読む·聞く(受動的)
→ 情報は一方的に入力されるが、記憶への定着は弱い。
🗣🧠 声に出す(能動的)
→ 自らの言葉で発することで、脳内の記憶回路が活性化。
→ 記憶の痕跡が強く、深く刻まれる。

このように、音読やシャドーイングのような声に出す学習は、
単なる受け身の学習を超えて、脳に「刻み込む」記憶法へと変わります。

🔷 声に出す(=情報を生成する)ことが、記憶を深く定着させる鍵。

– 声に出すことは、優れた運動感覚学習となる
〜 シャドーイングは脳と身体をフルに使う記憶術 〜

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シャドーイングとは、聞いた音声をすぐに繰り返して発音する学習法です。

この方法には、単なる「耳で聞く学習」を超えた、運動感覚学習(Kinesthetic Learning)の効果があります。

なぜ記憶が深くなるのか?

  1. 発声(motor)
    → 口や喉などの運動器官を使い、声に出して情報を「体で再現」。

  2. 聴覚モニタリング(sensory)
    → 自分の発した声が耳から入り、自分の聴覚を再び刺激。

  3. 脳内でのフィードバック修正
    → 発声→聴取→修正のサイクルが脳内で繰り返されることで、運動感覚と知覚の統合が起こり、記憶がより強固になります。

  4. 体性感覚の追加モダリティ
    → 経穴名などの抽象的な情報が、「自分の声を出した感覚」と結びつき、身体に刻まれる。

•  目で見て、耳で聴いて、口で言う
• 「口が覚えている」=身体で覚えている

🔷 シャドーイングは、脳と身体を統合して使う、最強の記憶術。
抽象知識を身体的な感覚とつなげることで、記憶は格段に深まります。

Ankiを最大限に活かす鍵は、カードの“質”にある
― 効果的な学習のためには、高品質なカードが必要 ―

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Ankiは非常に優れた学習ツールですが、本当に効果を発揮するには「カードの質」が重要です。

しかし、多くの人にとって
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