引用論文
Electroacupuncture at Zhongliao (BL33) and Other Acupoints for Overactive Bladder Symptoms
「過活動膀胱症状に対する中髎(BL33)および他の腧穴への電気鍼療法の比較研究」
研究背景
過活動膀胱(OAB)は、尿意切迫感、頻尿、夜間頻尿、切迫性尿失禁といった症状を特徴とし、高齢化に伴い成人男女の約16%に認められる排尿障害です。従来の治療は抗コリン薬やβ₃アドレナリン受容体作動薬など薬物療法および行動療法が中心ですが、薬剤の副作用(口渇、便秘、眠気など)や治療への不耐性・不十分な改善率(約60%)が課題となっています。近年、鍼治療、とりわけ電気鍼(electroacupuncture; EA)が侵襲性なく骨盤神経叢を調節する補完療法として注目され、特に仙骨孔に位置する中髎(BL33)への深刺EAが下部尿路症状を効果的に改善すると報告されていますが、他穴(BL40、SP6、BL7、LI4など)との比較検討は限られていました。本研究では、ラットOABモデルを用い、BL33深刺EAの有効性を他の代表的腧穴と比較することで、最適なEAプロトコール設計の知見を得ることを目的としました 。
目的
本研究の具体的目的は、アセト酸注入により誘発したOABラットモデルに対し、以下の各群間で尿動態パラメータを比較評価することです:
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中髎(BL33)深刺EA(D-BL33群)
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中髎(BL33)浅刺EA(S-BL33群)
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非腧穴群(BL33隣接部位の浅刺EA)
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委中(BL40)EA群
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三陰交(SP6)EA群
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通天(BL7)EA群
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合谷(LI4)EA群
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無介入群
これにより、経穴選択と刺針深度の違いがOAB症状改善に及ぼす影響を明らかにします 。
方法
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モデル確立:成体ラットに膀胱内へ0.5%アセト酸を注入し、OAB様の過敏性膀胱を誘導。
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EA施術:各群に応じ、20 Hz/0.5 mAの連続波を20分間通電。D-BL33群はBL33(第3仙骨孔付近)を約10 mm深刺し、S-BL33群および非腧穴群は約3 mm浅刺し。他のEA群も同様に標準深度で刺針。
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評価指標:
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収縮間期(intercontraction interval; ICI)…連続排尿間の平均間隔
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排尿時間(vesical micturition time; VMT)…一回の排尿持続時間
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最大膀胱収縮圧(maximum detrusor pressure; MDP)…排尿時の最高圧
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統計解析:モデル確立後とEA施術後の各指標を比較し、群間差をANOVAおよび多重比較検定で検証。P<0.05を有意としました 。
結果
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ICIの延長:D-BL33群、BL40群、SP6群で施術前後比較においてICIがそれぞれP=0.001、P=0.005、P=0.046で有意延長。特にD-BL33群は無介入群および他EA群との比較でいずれもP<0.01の群間差を示し、最も顕著な改善を認めました 。
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VMTとMDPの変化:D-BL33群ではVMTがP=0.017で有意短縮、MDPがP=0.024で有意上昇しましたが、VMTおよびMDPの変化量については他EA群との差異は統計学的に有意ではありませんでした 。
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他群の比較:BL7群、LI4群、浅刺BL33群、非腧穴群ではICI・VMT・MDPのいずれも大きな変化を示さず、効果は限定的でした 。
考察
深刺EAによるBL33刺激は、第3仙骨孔を通じて直接S3神経根を活性化し、骨盤神経叢を介した膀胱平滑筋の反射的収縮を抑制することで、収縮間期を延長すると考えられます。BL40やSP6は坐骨神経や脛骨神経への間接的刺激を通じて排尿反射を調整する一方、その効果はBL33深刺ほど強力ではありませんでした。浅刺BL33や非腧穴へのEAが効果不十分であったことから、適切な経穴部位と刺針深度がEA効果発現の鍵であり、BL33深刺プロトコールはOAB治療における理論的かつ実践的根拠を持つことが示唆されます。本研究は動物モデルを対象としますが、人への臨床応用を検討する際にも、仙骨部深刺EAを中心にプロトコールを設計する価値が高いと言えます 。
結論
アセト酸誘発OABラットモデルにおいて、BL33(中髎)への深刺EAは、他の代表的腧穴と比較して最も有意に収縮間期を延長し、過活動膀胱症状の抑制に寄与しました。OAB治療プロトコールでは、中髎への深刺術式を基本とし、BL40やSP6を補助的に併用するアプローチが推奨されます 。
使用経穴
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BL33(中髎)
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BL40(委中)
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SP6(三陰交)
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BL7(通天)
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LI4(合谷)