引用論文
Efficacy Observation on Jin’s Three-Needle Therapy for Allergic Rhinitis of Lung Qi Deficiency and Cold Syndrome
― 肺気虚・寒証アレルギー性鼻炎に対する晋三針療法の有効性観察
1. 研究目的および背景
アレルギー性鼻炎は、くしゃみ、鼻水、鼻づまりなどの鼻症状を主徴とし、季節性・通年性を問わずQOLを著しく低下させる疾患です。中医学では、肺は「気を主る」臓腑とされ、肺気が不足すると鼻腔の宣発粛降機能が低下し、外邪(風寒や風熱)の侵入を許しやすくなります。特に「肺気虚・寒証型」は、鼻水が粘稠性に乏しく透明で多量、寒気に悪化する特徴を示し、欧米薬物療法のみでは十分な改善を得られない症例も少なくありませんでした。本研究の目的は、晋三針(三つの中心的経穴を組み合わせた鍼法)を用いて、肺気虚・寒証型アレルギー性鼻炎の臨床効果を、西洋薬(デスロラタジン)と比較検討することにあります 。
2. 対象と方法
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症例選定
2012~2013年に外来を受診した肺気虚・寒証型アレルギー性鼻炎患者66例を、鍼治療群(33例)と西洋薬群(33例)に無作為割付。全例にARの症状スコアと身体所見スコアを施行前後で比較した 。
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中医証型の判定基準
肺気虚:息切れ、声音微弱、易倦怠。
寒証:頭痛冷感、鼻水清稀。
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治療法
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鍼治療群:
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三鼻点(鼻根部周辺の局所穴)
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迎香 (LI 20): 鼻翼外側、鼻唇溝上。
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上迎香 (EX-HN 8): 鼻根部、印堂より少し上方。
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印堂 (GV 29): 両眉頭中央。
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※前頭痛例には追加で 攢竹 (BL 2) を併用。
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三背点(肺の募穴・募合穴とされる遠隔穴)
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大杼 (BL 11): 第1胸椎棘突起下、左右約1.5寸。
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風門 (BL 12): 第2胸椎棘突起下。
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肺俞 (BL 13): 第3胸椎棘突起下。
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治療周期:1日1回、10回を1コースとし、計2コース(20回)実施。
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西洋薬群:
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デスロラタジン経口懸濁液 5 mg/日、20日間服用 。
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評価項目
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主観的症状スコア(くしゃみ・鼻漏・鼻づまり)
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身体所見スコア(鼻粘膜の蒼白・浮腫)
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総合有効率(【回復】+【顕効】+【有効】の割合)
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安全性(副作用の有無) 。
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3. 臨床成績
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有効率の比較
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鍼治療群:93.9 %(31/33例)が有効(回復+顕効+有効)を示し、西洋薬群72.7 %を有意に上回った(P < 0.05) 。
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症状・所見スコアの改善
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くしゃみ・鼻漏・鼻づまりの平均スコア、および鼻粘膜の蒼白と浮腫スコアは、両群とも治療後に有意減少した(P < 0.01)が、鍼治療群の低下幅が西洋薬群よりも大きかった(症状スコア:4.70 ± 2.07 vs. 6.55 ± 2.69、所見スコア:0.85 ± 0.67 vs. 1.45 ± 0.62、総合スコア:5.36 ± 2.70 vs. 8.00 ± 2.91、すべてP < 0.01) 。
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副作用
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鍼治療群:軽度の出血・圧痛が一過性に認められたが、重大な有害事象はなし。
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西洋薬群:軽度の口渇・眠気が報告されたものの、投薬継続に支障なし 。
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4. 考察およびメカニズム的展望
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経穴選択の根拠
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三鼻点は局所刺激により鼻粘膜の血流改善と神経調節を、三背点は肺の宣発粛降機能を高め、全身の気機を調和するとされる 。
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免疫学的視点
鍼刺激は局所における神経-免疫相互作用を介して、ヒスタミンやロイコトリエンなどのアレルギー性メディエーター放出を抑制し、Th1/Th2バランスをTh1寄りにシフトさせる可能性が示唆されている。他研究では、GV14やBL13への鍼がIgE産生低下や好酸球浸潤抑制に寄与することが報告されており、本研究の臨床成績とも整合的です 。
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冷証改善の観点
肺気虚・寒証型では体表の防御機能が低下しており、鍼刺激による体内陽気の補充(温経散寒)が寒邪排除を助け、粘膜バリアを強化すると考えられます 。
5. 臨床的含意と今後の展開
晋三針療法は、アレルギー性鼻炎において西洋薬単独と比較して高い有効率と症状改善を示し、副作用も軽度であることから、肺気虚・寒証型AR患者の補完代替医療として有用であると考えられます。今後は、治療効果の持続性を検証する長期フォローアップ研究や、各種免疫マーカーを用いたメカニズム解明が期待されます 。
使用経穴
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迎香 (LI 20)
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上迎香 (EX-HN 8)
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印堂 (GV 29)
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攢竹 (BL 2) ※前頭痛時追加
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大杼 (BL 11)
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風門 (BL 12)
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肺俞 (BL 13)