引用論文
Modulation of lung CD11b+ dendritic cells by acupuncture alleviates Th2 airway inflammation in allergic asthma
― 鍼治療による肺CD11b⁺樹状細胞の調節がアレルギー性喘息におけるTh2気道炎症を軽減する
1. 研究背景
アレルギー性喘息は、ハウスダストや花粉などのアレルゲン曝露により誘発されるTh2優位の気道炎症が特徴であり、気道過敏性(AHR)の増大や好酸球浸潤、粘液産生の亢進を伴います。樹状細胞(DC)は抗原提示能とサイトカイン産生によりTh2応答の発症・維持に中核的役割を果たしており、特に肺に存在するCD11b⁺サブセットがTh2誘導に深く関与すると報告されています。一方、鍼治療は古来より免疫調節作用を持つとされますが、その喘息モデルにおける具体的メカニズムや、どのようにDC機能を制御するかは明らかではありません。本研究では、鍼刺激が肺CD11b⁺DCをどのように変調し、Th2気道炎症を緩和するかをマウスモデルで詳細に解析しました 。
2. 実験デザインと方法
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アレルギー性喘息モデルの構築
BALB/c雌マウスにハウスダストマイト(HDM)を用いて感作・挑戦を行い、アレルギー性喘息を誘導しました。
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鍼治療の実施
実験群には、大椎(GV14)、風門(BL12)、肺兪(BL13)の三ヶ所に標準的手法で鍼を施術。施術タイミングは感作・挑戦の各段階に合わせ、合計○回行いました。
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評価項目
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気道過敏性(メサコリン投与による気道抵抗・肺コンプライアンス測定)
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気道組織の好酸球・リンパ球浸潤(BALF細胞分画、組織学的スコア)
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粘液産生(PAS染色、Muc5ac/Muc5b発現解析)
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Th2サイトカイン(IL-4, IL-5, IL-13)のBALFおよびリンパ節細胞培養上清中濃度
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血清IgE(全体およびHDM特異的)
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樹状細胞機能解析
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肺から分離したCD11b⁺DC数・活性化マーカー(CD86, OX40L)発現をフローサイトメトリーで定量
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Th2促進化学走化因子(CCL17, CCL22)産生評価
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採取したDCを健常マウス・喘息モデルマウスへ移入し、Th2細胞誘導能と炎症緩和効果を検証
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上皮由来アラーミン&ILC2解析
IL-25, IL-33, TSLPの産生量測定およびILC2蓄積・活性化状態を評価しました 。
3. 主な結果
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気道炎症の顕著な軽減
鍼群では、HDM誘導喘息モデルに比べてメサコリン反応性が大幅に低下し、肺コンプライアンスが改善しました。BALF中の好酸球・リンパ球数が減少し、組織学的スコアの改善(炎症スコア低下、杯細胞過形成抑制)およびMuc5ac/Muc5b遺伝子発現の抑制が確認されました。さらに、血清全IgEおよびHDM特異的IgEレベルも有意に低下しました 。
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Th2サイトカイン産生と細胞分化抑制
BALFおよびリンパ節細胞培養上清中のIL-4, IL-5, IL-13濃度が有意に減少し、肺組織におけるGata3, Il4, Il5, Il13の転写レベルも低下しました。フローサイトメトリーでは肺組織中のIL-4⁺CD4⁺(Th2)細胞割合が減少し、炎症性Th17細胞(IL-17A⁺CD4⁺)には影響が見られませんでした 。
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CD11b⁺DCの活性・遊走制御
鍼により肺中CD11b⁺DCの細胞数が減少し、CD86やOX40Lの発現レベルが有意に低下しました。同時に、Th2誘導化学走化因子CCL17, CCL22の産生も抑制。CCR7, CCL2, CCL8の発現変化から、DCのリンパ節遊走も制御されていることが示唆されました。移入実験では、鍼処理したDCを喘息モデルマウスに移植すると、Th2細胞の肺組織誘導が著しく抑制され、気道炎症が緩和されました 。
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アラーミンとILC2間接制御
鍼治療群では、気道上皮由来アラーミン(IL-25, IL-33, TSLP)の産生が抑制され、ILC2の蓄積および活性化が低下しました。この結果、ILC2由来のサイトカインが減少し、CD11b⁺DCおよびTh2応答に対する間接的な抑制効果が確認されました 。
4. 臨床的含意
本研究は、鍼治療がアレルギー性喘息において肺CD11b⁺樹状細胞を主要ターゲットとして免疫応答を再プログラミングし、Th2優位の炎症を効果的に軽減するメカニズムを明らかにしました。従来のステロイドやβ₂刺激薬に加え、鍼治療を併用することで、より包括的かつ副作用の少ない喘息管理戦略が期待されます。今後はヒト臨床試験による検証が待たれます 。
使用経穴
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大椎 (GV14)
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風門 (BL12)
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肺兪 (BL13)