引用論文
Neurophysiologic Basis of Back-Shu and Huatuo-Jiaji Points
「背部兪穴および華佗夾脊穴の神経生理学的基盤」
背景
背部兪穴(Back-Shu points)は、膀胱経上に督脈から外方1.5寸の位置にとり、それぞれの臓器と同一神経節レベルに対応するとされる経穴群です。一方、華佗夾脊穴(Huatuo-Jiaji points)は、第1胸椎から第5腰椎の棘突起下縁外方0.5寸に左右各17穴、計34穴が分布し、主に脊髄神経を介した多様な反射機序を利用します。本論文は、これらの経穴が自律神経系(交感神経・副交感神経)にどのように作用し、臓器機能を調節するかを解明することを目的とした基礎研究です 。
自律神経系の求心性・遠心性神経分布
交感神経前髄心細胞は胸髄節(T1~L3)に起始し、傍脊椎神経節を経て臓器へ走行します。副交感神経は延髄核や仙髄S2~S4に起始し、迷走神経や骨盤神経を介して臓器に分布します。これらの神経線維は脊髄後角で入力・出力がクロスし、皮膚・筋・臓器間で多重の神経反射が成立します 。
背部兪穴の解剖学的位置と臓器反射
各背部兪穴は、対応臓器と同レベルの椎体横に位置し、刺激により皮膚-臓器間の神経反射(皮臓反射)を誘発します。例えば、肺兪(UB13)への鍼刺激は気管支拡張を促し、心兪(UB15)は心拍調節、胃兪(UB21)は胃腸運動亢進、腎兪(UB23)は膀胱収縮抑制など、多様な生理応答を示します 。
華佗夾脊穴の特徴
華佗夾脊穴は、棘突起下縁外方0.5寸に沿う細線維を直接刺激できるため、深い刺絡や電気鍼が容易です。背部兪穴より浅い刺入で安全性が高く、同層多点同時刺激による中枢性下行性抑制や側副神経回路の賦活が期待できます 。
神経反射機序の分類
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皮臓(viscero-cutaneous)反射:臓器障害に伴い、対応する皮膚領域に過敏や圧痛が出現する現象です。逆に、その部位を鍼刺激することで臓器機能が調整されます 。
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皮臓(cutaneous-visceral)反射:皮膚刺激が脊髄後角を介して自律神経出力に影響し、臓器運動や分泌を変化させる機序です 。
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皮筋(cutaneous-muscular)反射:皮膚への刺鍼刺激が骨格筋緊張を変化させ、間接的に内臓圧迫・牽引を介して臓器機能を調節する可能性があります 。
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臓筋(viscero-muscular)反射:臓器からの知覚入力が脊髄反射を介して筋活動を変調し、その逆もまた成立する双方向性機序です 。
背部兪穴と自律神経節の対応
本論文では、各臓器と対応する脊髄節レベルを示し、背部兪穴の位置が交感神経・副交感神経の入力・出力点と一致することを表形式で整理しています。たとえば、肺兪(UB13)はT3節、心兪(UB15)はT5節、腎兪(UB23)はL2節、膀胱兪(UB28)はS2節に該当し、臓器特異的反射が成立しやすいことが示されています 。
臨床的意義
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診断上の活用:臓器機能障害時に対応背部兪穴の圧痛をチェックすることで病態評価や経絡診断の補助となります。
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治療プロトコールの標準化:各臓器疾患に対し、背部兪穴と華佗夾脊穴を併用することで多重の反射経路を活性化し、有効性を高める根拠が得られました。
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安全性の向上:背部兪穴への深刺は危険を伴う場合があるため、華佗夾脊穴で代替的に浅刺・電気鍼を用いることで安全かつ効果的なアプローチが可能です 。
今後の展望
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神経伝達物質解析:刺鍼後の髄液や血漿中エンドルフィン、セロトニンなどの変動を計測し、反射機序の分子レベルでの検証。
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機能的画像解析:fMRIやPETを用いた中枢神経活動の可視化により、反応部位と経穴位置の対応を詳細に評価。
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臨床試験:背部兪穴・華佗夾脊穴併用プロトコールによる多施設ランダム化比較試験を実施し、エビデンスを拡充。
使用経穴
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背部兪穴(Back-Shu Points)
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UB13(肺兪)
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UB14(厥陰兪)
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UB15(心兪)
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UB18(肝兪)
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UB19(膽兪)
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UB20(脾兪)
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UB21(胃兪)
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UB23(腎兪)
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UB25(大腸兪)
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UB27(小腸兪)
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UB28(膀胱兪)
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華佗夾脊穴(Huatuo-Jiaji Points)
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T1~L5棘突起下外方0.5寸(左右各)
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対応臓器別主な対照レベル:
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T3華佗夾脊穴(肺関連)
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T4華佗夾脊穴(心包関連)
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T5華佗夾脊穴(心関連)
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T9華佗夾脊穴(肝関連)
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T10華佗夾脊穴(胆関連)
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T11華佗夾脊穴(脾関連)
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T12華佗夾脊穴(胃関連)
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L2華佗夾脊穴(腎関連)
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L4華佗夾脊穴(大腸関連)
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S1華佗夾脊穴(小腸関連)
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S2華佗夾脊穴(膀胱関連)
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