タイトル
Combination of Manual Acupuncture, Penetrating Needling, and Electroacupuncture to Treat Bell’s Palsy + 手技鍼、貫入鍼法および電気鍼を組み合わせたベル麻痺治療
引用
論文の日本語説明
背景
ベル麻痺は顔面神経下位運動ニューロンが片側のみ原因不明に麻痺する急性疾患であり,患者の表情機能障害だけでなく,社会的・心理的健康にも大きく影響します。House–Brackmann尺度で重症度を評価し,Grade Iが正常,Grade VIが完全麻痺に相当します。本症例報告では,鍼治療の有効率が90%以上と報告される伝統的手技鍼(filiform needles)に加え,貫入鍼法と電気鍼(EA)を組み合わせることで,疾患経過短縮と後遺症予防を図った臨床効果を検討しています 。
症例
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患者プロファイル:34歳女性。発症2日前より右顔面全体の筋力低下を自覚し,来院時にはHouse–Brackmann Grade IIIと診断。
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西洋医学的治療:メチルプレドニゾロン4 mgおよびメコバラミンを1日2回,メチスプリノール500 mgを1日4回投与開始 。
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鍼治療の詳細
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手技鍼(Manual Acupuncture)
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使用鍼:Hūanqúi製 単刺0.25×25 mmおよび0.25×40 mm
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選穴:GB-20(風池),BL-2(攅竹),ST-36(足三里),LI-4(合谷),TE-5(外関)左右,GV-20(百会)
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刺入→保持30分 。
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貫入鍼法(Penetrating Needling)
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経絡方向に沿って5対の鍼を顔面部に貫通させ,30分保持
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GB-14 → Ex-HN-3
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ST-7 → SI-18
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SI-18 → LI-20
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ST-6 → ST-4
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ST-5 → ST-4 。
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電気鍼(Electroacupuncture, EA)
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第4回治療より導入
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ペアリング:ST-7–SI-18, ST-6–ST-5, GB-14–Ex-HN-5, ST-4–CV-24
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波形:dense–disperse(10/50 Hz), 強度レベル2, 20分 。
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補助的温熱療法
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初回~第4回にTDPランプによる局所温熱(15分)を併用 。
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施術頻度・回数:週2回,計12セッション実施。
結果
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改善経過:1~3回目はGrade III,4回目にGrade IIへ移行,7回目以降はGrade I(正常顔面機能)を維持 。
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副作用:鍼・EAともに痛みや不快感なく,熱傷や神経刺激過剰などの有害事象は一切観察されず。
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患者の主観的評価:鍼治療中はリラックス感が得られ,時折睡眠に入るほど快適であったとの報告あり 。
考察
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早期介入の重要性
発症3日目からの鍼治療は,顔面神経浮腫の軽減と軸索脱髄予防に寄与し,急性期の神経保護に有効とされる 。
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貫入鍼法のメカニズム
ST-6→ST-4の貫入は咬筋や頬筋を含む表情筋群を顔面神経枝レベルで直接刺激し,線維化や筋萎縮の抑制につながる 。
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全身穴の役割
GV-20やST-36の刺激は,BDNF・GDNFの発現増加やTNF-α抑制,マクロファージ活性化を介して神経再生・抗炎症効果を示唆 。LI-4は小脳調節を通じて異常神経回路の正常化に寄与すると考えられる。
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電気鍼の波形選択
低周波(2–4 Hz)はエンドルフィン放出,高周波は筋収縮抑制に有効であるが,単一周波ではスパズムや痛みのリスクがあるため,10/50 Hzのdense–disperse波形で両者をバランスさせた 。
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温熱療法の併用
TDPによる局所温熱は血流改善・抗炎症作用を強化し,鍼刺激効果の増幅を助ける 。
結論
本症例では,手技鍼・貫入鍼法・電気鍼およびTDP温熱療法を組み合わせた集学的アプローチにより,ベル麻痺の回復期間を有意に短縮し,後遺症リスクを低減した。痛みや副作用のリスクも低く,他の臨床例への展開が期待されるが,大規模試験での検証が必要である 。
使用経穴一覧
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頭部・頸部局所穴
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GB-14(陽白)→Ex-HN-3(印堂)
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BL-2(攅竹)
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GB-20(風池)
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顔面貫入鍼ペア
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ST-7(下関)→SI-18(顴髎)
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SI-18(顴髎)→LI-20(迎香)
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ST-6(頰車)→ST-4(地倉)
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ST-5(大迎)→ST-4(地倉)
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体幹・四肢遠隔穴
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ST-36(足三里)
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LI-4(合谷)
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TE-5(外関)左右
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GV-20(百会)
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電気鍼ペア
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ST-7–SI-18
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ST-6–ST-5
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GB-14–Ex-HN-5
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ST-4–CV-24
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以上の集学的鍼治療プロトコルは,ベル麻痺の早期回復と後遺症予防を目的とした有効な選択肢として臨床応用が検討されます。