学習トップ理由で解く 柔道整復師外科学概論 ▸ §20 臨床実地問題 / QJ31P056

理由で解く 柔道整復師

QJ31P056 外科学概論

出典:第31回柔道整復師国家試験(2023)午後 問56
問題
20歳の男性。大学でラグビー部に所属している。練習中、グランドに激しく頭をぶつけて10秒間の意識消失を起こした。1時間後には症状は何もなかった。正しいのはどれか。
選択肢
1 2度脳しんとうである。
2 意識が改善すれば神経学的検査は必要ない。
3 翌日の練習を許可する。
4 セカンドインパクトシンドロームに注意する。
解答
正解4(セカンドインパクトシンドロームに注意する。)
解説

わずか10秒でも意識消失を伴った脳振盪です。症状が消えても脳の回復は終わっておらず、この時期に2度目の衝撃を受けると致命的な脳腫脹をきたすセカンドインパクトシンドロームの危険があります。正しいのは4です。

脳振盪は頭部への衝撃で一過性に脳機能が障害される外傷で、CTやMRIで異常を認めないことが多く、症状も短時間で消えるのが普通です。しかし細胞レベルではイオンの流出入とグルコース代謝の異常が数日から数週間続き、脳血流の自動調節も不安定なままです。この回復途上に2度目の衝撃が加わると、自動調節が破綻してびまん性の急激な脳腫脹をきたすことがあります。これがセカンドインパクトシンドロームで、10代から20代前半の若年アスリートに多く、死亡や重篤な後遺症につながります。そのため、受傷した当日は競技・練習に戻さないことが大原則です。医療機関で評価を受け、症状が完全に消えてから段階的に運動強度を上げる復帰手順を踏み、その間は一人にしない、悪化する頭痛・繰り返す嘔吐・けいれん・意識レベルの低下があれば直ちに受診する、という指導を本人と指導者・家族に伝えます。

✓ 4. 正しい
セカンドインパクトシンドロームに注意する。
症状が1時間で消えていても、脳の代謝と血流調節はまだ回復途上です。この時期の再受傷が急激な脳腫脹を招くため、当日の復帰は行わず、無症状を確認しながら段階的に復帰させます。若年の競技者ほどリスクが高い点を、本人だけでなく指導者にも伝えることが実際の予防につながります。
✗ 1. 誤り
2度脳しんとうである。
脳振盪のグレード分類は一つではないため、「2度」がどの分類の2度かを押さえる必要があります。国家試験でよりどころとされてきたAAN(米国神経学会)分類では、意識消失を伴うものはその長さにかかわらずすべてGrade 3(3度)とされ、1度・2度はいずれも意識消失を伴わないもの(症状や錯乱が15分以内に消えるかどうかで1度と2度を分ける)です。したがってAAN分類に従えば、10秒とはいえ意識消失があった本例は2度ではなく3度に当たり、この肢は誤りとなります。なおCantu分類では「意識消失5分未満、または健忘30分〜24時間」をGrade 2とするなど、分類ごとに意識消失の扱いが異なる点にも注意してください。こうした基準の食い違いもあって、現在は重症度をグレードで固定するより、症状の推移を評価して段階的に復帰させる考え方が主流になっています。
✗ 2. 誤り
意識が改善すれば神経学的検査は必要ない。
症状が消えても評価は必要です。意識レベル、瞳孔、四肢の麻痺、言語、平衡機能、受傷前後の健忘の範囲などを確認します。とくに急性硬膜外血腫は受傷直後の意識障害の後に意識清明期を挟んで急速に悪化するため、症状が消えたことは安全の証明になりません。時間をおいた再評価と、悪化時にすぐ受診できる体制を整えます。
✗ 3. 誤り
翌日の練習を許可する。
受傷当日の競技復帰は行わず、翌日にいきなり通常練習へ戻すのも適切ではありません。標準的には、症状消失を確認したうえで、軽い有酸素運動 → 競技特異的な運動 → 接触を伴わない練習 → 接触プレー → 試合復帰と段階を踏み、各段階を24時間以上あけて進めます。途中で症状が再燃したら前の段階に戻します。この手順を指導者と共有しておくことが、安全な復帰の実務です。
ポイント
  • 脳振盪のグレード分類は複数ある。AAN分類=意識消失があればすべて3度/Cantu分類=意識消失5分未満は2度、と基準が異なるため、必ず分類名とセットで覚える。
  • 現在はグレードで重症度を固定するより、症状の推移をみて段階的に復帰させる考え方が主流。
  • セカンドインパクトシンドローム=脳振盪からの回復途上に再受傷 → 脳血流自動調節の破綻 → 急激なびまん性脳腫脹。若年アスリートに多く致死率が高い。
  • 受傷当日の競技復帰は行わない(When in doubt, sit them out)。
  • 症状が消えても神経学的評価と経過観察は必要。急性硬膜外血腫は意識清明期を挟んで悪化する。
  • 復帰は段階的に。各段階24時間以上あけ、症状が出たら前段階へ戻す。
  • 悪化する頭痛、繰り返す嘔吐、けいれん、意識レベル低下、片麻痺、瞳孔不同は緊急受診のサイン。一人にしない。
比較表
段階内容目安
1活動を控え、症状の消失を待つ無症状になるまで
2軽い有酸素運動(歩行・自転車)各段階24時間以上
3競技特異的な運動(ランニングなど)頭部への衝撃は避ける
4接触を伴わない練習徐々に強度を上げる
5接触プレーを含む練習医学的評価を経て
6試合復帰症状再燃時は前段階へ戻る
この問題の解説の修正を依頼する

解説に誤り・改善点があればお知らせください。件名と本文は自動入力済みです(編集できます)。お名前・メールアドレスは任意です。送信内容は玄康株式会社(黒澤一弘)に届きます。