学習トップ理由で解く 柔道整復師外科学概論 ▸ §9 麻酔 / QJ25P050

理由で解く 柔道整復師

QJ25P050 外科学概論

出典:第25回柔道整復師国家試験(2017)午後 問50
問題
脊髄くも膜下麻酔で正しいのはどれか。
選択肢
1 多くは胸椎で穿刺する。
2 上腹部の手術で使用する。
3 サドルブロックは側臥位で行う。
4 脳脊髄液が漏れると頭痛が起こる。
解答
正解4(脳脊髄液が漏れると頭痛が起こる。)
解説

脊髄くも膜下麻酔は腰椎で穿刺し、原則として臍より下の手術に用いる。硬膜・くも膜に開いた穴から脳脊髄液が漏れ続けると硬膜穿刺後頭痛が起こるため、正しいのは4。

成人の脊髄は第1腰椎下縁(〜第2腰椎上縁)で脊髄円錐として終わり、それより下には脊髄本体がなく、馬尾が髄液中に浮いているだけとなる。だから脊髄円錐より尾側にあたるL2/3〜L4/5の椎間から穿刺すれば、針は馬尾を押し分けて進むので脊髄本体を傷つけにくい(左右の腸骨稜を結ぶヤコビー線がおよそL4棘突起の高さで、部位決定の目安になる)。くも膜下腔では脊髄神経根が、末梢神経のような神経上膜・神経周膜といった結合組織性の鞘に包まれずに髄液中へ露出しているため、少量の局所麻酔薬でも確実に知覚・運動・交感神経が遮断される。ただし遮断は線維の太さの順に進み、細い交感神経線維(B線維)が最も早く遮断されるため、交感神経遮断域は知覚遮断域より2〜4分節高くなる点に注意がいる。遮断域が上がりすぎると交感神経遮断による血圧低下・徐脈、さらにT4より高位では肋間筋麻痺による呼吸抑制が問題となる。また硬膜に開いた穿刺孔から髄液が漏れて髄液圧が下がると、起立時に脳が下方へ偏位して硬膜・血管・神経が牽引され、代償性の血管拡張も加わって頭痛が生じる。

✓ 4. 正しい
脳脊髄液が漏れると頭痛が起こる。
硬膜穿刺後頭痛(PDPH)である。穿刺孔からの髄液漏出で髄液量・髄液圧が低下し、脳を支える緩衝が減って硬膜や架橋静脈・神経が牽引されるために起こる。後頭部から前頭部の拍動性の頭痛で、坐位・立位で増悪し臥位で軽快するのが最大の特徴。安静・十分な補液・鎮痛薬で多くは軽快し、遷延例には自家血硬膜外注入(ブラッドパッチ)を行う。予防としては細径のペンシルポイント針を選び、カッティング針では刃面を硬膜線維の走行に平行に向けて穿刺する。
✗ 1. 誤り
多くは胸椎で穿刺する。
穿刺するのは腰椎である。胸椎の高さにはまだ脊髄本体があるため、そこを刺すと脊髄損傷の危険がある。脊髄が第1腰椎下縁(〜第2腰椎上縁)で脊髄円錐として終わることを利用し、それより尾側のL2/3・L3/4・L4/5から穿刺してくも膜下腔に達し、髄液の流出を確認してから薬液を注入する。
✗ 2. 誤り
上腹部の手術で使用する。
上腹部の手術にはT4付近までの高位遮断が必要で、交感神経が広範に遮断されて著明な血圧低下・徐脈をきたし、肋間筋麻痺による呼吸抑制も起こりうる。脊髄くも膜下麻酔の適応は原則として臍より下(下腹部・鼠径部・会陰・肛門・下肢)で、上腹部の手術には全身麻酔を選ぶか、硬膜外麻酔を併用して管理する。
✗ 3. 誤り
サドルブロックは側臥位で行う。
サドルブロック(鞍状ブロック)は坐位で行う。坐位のまま高比重の局所麻酔薬を注入して数分保持すると、薬液が重力で最も低い仙骨部の神経根へ集まり、麻酔域を会陰・肛門周囲(座ったとき鞍に当たる範囲)に限局できる。痔核手術や会陰部の処置に向く。側臥位は通常の脊髄くも膜下麻酔で広く用いられる穿刺体位で、薬液の比重と体位の組み合わせで麻酔域を調節する。
ポイント
  • 穿刺部位はL2/3〜L4/5。 成人の脊髄は第1腰椎下縁(〜第2腰椎上縁)で脊髄円錐として終わり、それより下は馬尾になる。だからL2/3以下の椎間なら馬尾を押し分けて安全に到達できる。ヤコビー線=L4棘突起の高さが目安。
  • 針が通る順序:皮膚→皮下組織→棘上靱帯→棘間靱帯→黄色靱帯→硬膜外腔→硬膜→くも膜→くも膜下腔髄液の流出で到達を確認する。
  • 少量の薬液で効く理由は、くも膜下腔では脊髄神経根が神経上膜・神経周膜といった結合組織性の鞘に包まれず、髄液中へ露出しているため(硬膜外麻酔で多量を要するのと対照的)。
  • 遮断は細い線維から順に進む(交感神経のB線維→痛覚・温度覚のC・Aδ→触圧覚→運動のAα)。そのため交感神経遮断域は知覚遮断域より2〜4分節高い
  • 適応は臍より下の手術(下腹部・鼠径部・会陰・肛門・下肢)。上腹部は高位遮断が必要で不適。
  • サドルブロック=坐位+高比重薬で会陰部に麻酔域を限局。麻酔域は薬液の比重と体位で調節する。
  • 主な合併症:血圧低下・徐脈(交感神経遮断)、悪心・嘔吐、尿閉、硬膜穿刺後頭痛(起立で増悪・臥位で軽減)、高位脊麻による呼吸抑制。
比較表
脊髄くも膜下麻酔と硬膜外麻酔の比較
項目脊髄くも膜下麻酔硬膜外麻酔
薬液を入れる場所くも膜下腔(脳脊髄液の中)硬膜外腔(硬膜の外側)
薬液が触れる神経結合組織性の鞘に包まれず髄液中に露出した神経根に、直接触れる硬膜や神経周膜などの結合組織性の鞘を越えて浸透する必要がある
薬液量少量(数mL):上記のとおり神経根に直接作用するため多量(十数mL):鞘を越えて浸透させ、硬膜外腔に広げる必要があるため
穿刺高位腰部のみ(L2/3〜L4/5)頸部・胸部・腰部いずれも可能
効果発現速い(数分)やや遅い(15〜20分)
麻酔域の調節薬液の比重と体位カテーテル留置高位と薬液量
持続投与通常は単回投与カテーテル留置で持続投与・術後鎮痛が可能
硬膜穿刺後頭痛起こりうる(細いペンシルポイント針で予防)本来は起こらないが、誤って硬膜を穿刺すると太い針のため強く出る
主な適応下腹部・鼠径部・会陰・肛門・下肢の手術広範囲。全身麻酔との併用や術後鎮痛にも用いる
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