BL40 委中 のエビデンス
2025.07.01 経絡経穴
BL40 Wěizhōng (委中) – Middle of the Crook
- 取穴部位: 膝窩横紋の中央、膝窩動脈の拍動部に取る 。
- 古典的基礎: 膀胱経の合土穴である。また、「四総穴」の一つとして「腰背は委中に求む(腰背の病は委中を治療に求める)」という格言で知られ、古来より腰痛治療の第一選択穴とされてきた 。腰痛、坐骨神経痛、下肢の麻痺や痛み、さらには血中の熱を冷ます作用から皮膚病(蕁麻疹、湿疹)にも用いられる。
- 現代科学的エビデンスと作用機序: BL40(委中)は膝窩横紋の正確な中央に位置し、その深部には脛骨神経および膝窩動静脈が走行する、神経血管構造が豊富な重要部位である。委中は、腰痛治療における有効性がfMRIなどの脳機能イメージング研究によって科学的に裏付けられている。
- 腰痛および坐骨神経痛に対する強力な臨床エビデンス: 古典的な評価を裏付けるように、BL40は腰痛および坐骨神経痛に対する鍼治療研究において、最も頻繁に含まれ、その有効性が検証されている経穴の一つである。
- 複数のシステマティックレビューおよびメタアナリシスにおいて、BL40を含む鍼治療が、無治療や通常ケアと比較して、腰痛を有意に改善することが示されている。Leeらによるメタアナリシスでは、腰痛治療に最も頻繁に処方される経穴の一つとしてBL40が挙げられ、特に腰部の局所穴であるBL23(腎兪)との組み合わせ(BL23-BL40)が最も頻用される組み合わせの一つであることが報告されている。これは、局所と遠隔を組み合わせるという伝統的な治療原則が、現代の臨床においても広く実践され、有効であると認識されていることを示している。坐骨神経痛を対象としたRCTプロトコルにおいても、BL40は治療点として一貫して採用されている。
- Shim, J.-W., Jung, J.-Y., & Kim, S.-S. (2016). Effects of Electroacupuncture for Knee Osteoarthritis: A Systematic Review and Meta-Analysis. Evidence-Based Complementary and Alternative Medicine, 2016, Article ID 3485875. https://doi.org/10.1155/2016/3485875 → 要約
- Hsieh, D., Chen, Y.-C., Chang, H.-C., Wei, C.-C., & Lee, T.-H. (2024). Efficacy of Electroacupuncture Compared to Standard and Manual Needling Therapy for Nonspecific Low Back Pain: A Systematic Review and Meta-Analysis. Cureus, 16(10), e72577. https://doi.org/10.7759/cureus.72577 → 要約
- Kim, G., Kim, D., Moon, H., Yoon, D.-E., Lee, S., Ko, S.-J., Kim, B., Chae, Y., & Lee, I.-S. (2023). Acupuncture and Acupoints for Low Back Pain: Systematic Review and Meta-Analysis. American Journal of Chinese Medicine, 51(2), 223–247. https://doi.org/10.1142/S0192415X23500131 → 要約
- Liu, C.-H., Kung, Y.-Y., Lin, C.-L., Yang, J.-L., Wu, T.-P., Lin, H.-C., Chang, Y.-K., Chang, C.-M., & Chen, F.-P. (2019). Therapeutic efficacy and the impact of the “dose” effect of acupuncture to treat sciatica: A randomized controlled pilot study. Journal of Pain Research, 12, 3511–3520. https://doi.org/10.2147/JPR.S210672 → 要約
- 中枢神経系の変調: 委中への鍼刺激は、痛みの認知・情動処理に関わる脳領域(前頭前野、帯状回など)の活動を特異的に変調させる。慢性腰痛患者では異常をきたしているデフォルト・モード・ネットワーク(DMN)の活動を正常化させることが報告されている 。
- Zhou, S., Cao, H., Yu, L., Jin, Y., Jia, R., Wen, Y., & Chen, X. (2016). Changes of brain pain center and default mode network an electro acupuncture in Weizhong and Dachangshu acupoints: a task-fMRI study. Zhonghua Yixue Zazhi, 96(7), 531–534. https://doi.org/10.3760/cma.j.issn.0376-2491.2016.07.008 → 要約
- 2006年にShaらが行った画期的な研究では、健康な被験者のBL40に鍼刺激を行い、PET/CTを用いて脳の糖代謝の変化を観察した 。その結果、BL40への刺激は特定の脳領域の活動を選択的に変化させることが示された。
- 活性化領域: 左前頭葉(ブロードマンエリア BA10, 11, 44-46)、側頭葉(BA22, 38)、頭頂葉(BA39, 40)、両側の視覚野(BA18, 19)、そして左の小脳皮質や島皮質などが含まれた。
- 抑制領域: 両側の大脳辺縁系の一部である帯状回(BA24)や頭頂葉の一部(BA7)、黒質などが含まれた。
- Shapo, G., Ma, L., & Liu, C. (2006). [Effects of acupuncture at Weizhong (BL40) on brain function with PET/CT]. Zhongguo Zhong Xi Yi Jie He Za Zhi, 26(11), 969–972. PMID: 17186722 → 要約
- 下行性疼痛抑制系の賦活: 慢性腰痛患者を対象とした研究では、BL40を含む鍼治療が下行性疼痛抑制系(DPMS)と報酬系という、痛みの制御に不可欠な二つのシステムの主要な結節点(ハブ)の結合性を変調させることが示された。具体的には、中脳の中脳水道周囲灰白質(PAG)および腹側被蓋野(VTA)と、情動処理の中核である扁桃体との間の安静時機能的結合性(rsFC)が、真の鍼治療によって有意に増強された。そして、この結合性の増強の度合いは脊髄レベルで痛みの伝達を強力に抑制し、患者が感じる痛みの「煩わしさ」の軽減度と正の相関を示した 。
- Kim, K.-W., Park, K., Park, H.-J., Jahng, G.-H., Jo, D.-J., Cho, J.-H., Song, E.-M., Shin, W.-C., Yoon, Y.-J., Kim, S.-J., Eun, S., & Song, M.-Y. (2019). Effect and neurophysiological mechanism of acupuncture in patients with chronic sciatica: protocol for a randomized, patient-assessor blind, sham-controlled clinical trial. Trials, 20, 56. https://doi.org/10.1186/s13063-018-3164-8 → 要約
- Yu, S., Ortiz, A., Gollub, R. L., Wilson, G., Gerber, J., Park, J., Huang, Y., Shen, W., Chan, S.-T., Wasan, A. D., Edwards, R. R., Napadow, V., Kaptchuk, T. J., Rosen, B., & Kong, J. (2020). Acupuncture treatment modulates the connectivity of key regions of the descending pain modulation and reward systems in patients with chronic low back pain. Journal of Clinical Medicine, 9(6), 1719. https://doi.org/10.3390/jcm9061719 → 要約
- これらの神経科学的知見は、「腰背委中求」という古典的原則の生物学的基盤を鮮やかに描き出す。膝裏のBL40を刺激することで生じた求心性の神経信号は、脊髄を上行し、脳幹のPAGやVTAといった高次中枢に到達する。PAGの活性化は、延髄の吻側延髄腹内側部(RVM)などを介して脊髄後角へと投射する強力な下行性疼痛抑制系を賦活化し、腰部から入力される侵害受容信号を脊髄レベルで「ゲート」する。同時に、報酬系の中枢であるVTAや情動の中枢である扁桃体との連携を強化することで、痛みに対する情動的・認知的な側面(例:痛みの煩わしさ、恐怖、不安)をも変調させる。このように、BL40への刺激は、痛みの感覚的側面と情動的側面の両方に介入する、極めて洗練された中枢性鎮痛メカニズムを起動させることが示唆される。
- 体性-自律神経反射と血流改善: BL40のもう一つの作用機序として、体性-自律神経反射を介した血流改善が挙げられる。Liuらが計画中の臨床試験プロトコルでは、健康な被験者のBL40に鍼または灸刺激を行い、腰部の皮膚温度を赤外線サーモグラフィで測定することが計画されている。これは、膝窩部への体性感覚刺激(鍼灸)が、自律神経系(交感神経)を介して、遠隔部である腰部の血管を拡張させ、血流を増加させる(=皮膚温度を上昇させる)という体性-自律神経反射の存在を検証するものである。腰部筋群の血流が改善すれば、筋緊張の緩和や発痛物質の洗い出しが促進され、腰痛の軽減に繋がる。これもまた、「腰背委中求」の科学的根拠の一つとなりうる。
- Zheng, S.-Y., Wang, X.-Y., Lin, L.-N., Liu, S., Huang, X.-X., Liu, Y.-Y., Yu, X.-S., Pan, W., Fang, J.-Q., & Liang, Y. (2025). Lumbar temperature change after acupuncture or moxibustion at Weizhong (BL40) or Chize (LU5) in healthy adults: A randomized controlled trial. Journal of Integrative Medicine, 23(2), 145–151. https://doi.org/10.1016/j.joim.2025.01.004 → 要約
- 臨床応用と配穴:
- 主要な臨床応用: 急性腰痛(ぎっくり腰)、椎間板ヘルニア、坐骨神経痛、変形性膝関節症、皮膚疾患 。
- 配穴: 急性腰痛には、腰部の圧痛点(阿是穴)と組み合わせる。この際、刺絡(少量の瀉血)が著効を示すことがある。皮膚疾患には、血の熱を冷ます曲池(LI11)や血海(SP10)と組み合わせる。
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