学習トップ理由で解く 柔道整復師柔道整復理論 ▸ §24 臨床実地問題 / QJ32P106

理由で解く 柔道整復師

QJ32P106 柔道整復理論

出典:第32回柔道整復師国家試験(2024)午後 問106
問題
85歳の女性。朝の散歩中に手を衝いて転倒し、肩の痛みを感じた。痛みが引かないため夕方来所した。肩部の腫脹は著明で、上腕部から前胸部にかけて皮下出血斑がみられた。肩関節の自動運動はわずかに可能で、異常可動性と軋轢音は触知できなかった。考えられるのはどれか。
選択肢
1 腱板断裂
2 肩関節烏口下脱臼
3 上腕骨外科頸骨折
4 上腕二頭筋長頭腱断裂
解答
正解3(上腕骨外科頸骨折)
解説

85歳女性が手を衝いて転倒し、肩の著明な腫脹と上腕から前胸部に及ぶ皮下出血斑を生じている。自動運動がわずかに可能で異常可動性・軋轢音を触れないのは、嵌入した上腕骨外科頸骨折の典型像である。

上腕骨外科頸は解剖頸の遠位、大結節・小結節より下でくびれた部分(骨端から骨幹への移行部)にあたり、海綿骨から皮質骨へ移行する力学的な弱点である。高齢者では骨粗鬆化が加わってさらに折れやすく、手を衝いて転倒した際の介達外力で発生し、上肢が外転位で衝かれた外転型が多い。関節包は解剖頸に付着するため、外科頸骨折は関節包外の骨折となり、骨折部の出血が関節内にとどまらず上腕内側から側胸部・前胸部へと重力に従って広がる。このため受傷から半日経った夕方には広範な皮下出血斑として現れる。嵌入型では骨折端がかみ合って安定しているので、異常可動性や軋轢音を触れず、自動運動もわずかながら可能なことがある。この所見をもって「骨折ではない」と判断せず、高齢者の肩外傷では嵌入骨折を前提に扱う。異常可動性を確かめる目的で肩を動かすことは避け、患肢を体幹に固定した状態でX線検査を医師に依頼する。なお腋窩神経は外科頸の後面を回り込んで走行するため、外科頸骨折では腋窩神経損傷(三角筋の麻痺・肩外側の感覚障害)を必ず念頭に置く。

✓ 3. 正しい
上腕骨外科頸骨折
高齢女性、手を衝いての転倒(介達外力)、肩部の著明な腫脹、上腕から前胸部に広がる皮下出血斑という組み合わせがそのまま外科頸骨折を指している。とくに「上腕部から前胸部にかけて」という皮下出血斑の広がりは、関節包外骨折による大量の出血が重力に従って下降したことを示す所見で、腱板断裂や上腕二頭筋長頭腱断裂では説明できない。嵌入型であるため異常可動性と軋轢音を欠き、自動運動もわずかに可能である点も矛盾しない。固定の前後では肩外側の感覚と三角筋の収縮(腋窩神経)、および末梢の血行・感覚を確認し、異常があれば医師へ伝える。
✗ 1. 誤り
腱板断裂
腱板断裂も高齢者の転倒後に起こるが、主な所見は自動外転の困難(ドロップアームサイン)と有痛弧で、他動可動域は比較的保たれる。腫脹は限定的で、上腕から前胸部にまで及ぶ広範な皮下出血斑は通常みられない。本例の皮下出血の広がりと肩部の著明な腫脹は、腱板だけの損傷では説明できない。
✗ 2. 誤り
肩関節烏口下脱臼
烏口下脱臼では弾発性固定のため自動運動はほぼ不能で、三角筋部の膨隆が消失して肩峰が角状に突出し、烏口突起下に骨頭を触知する。上肢は軽度外転位に保たれ、内転できない。本例は自動運動がわずかに可能で、こうした脱臼特有の変形や弾発性固定の記載がなく、合致しない。
✗ 4. 誤り
上腕二頭筋長頭腱断裂
長頭腱断裂では、断裂した筋腹が遠位へ移動して上腕前面中央が瘤状に膨隆する(いわゆるポパイ変形)のが特徴で、皮下出血は上腕前面から肘窩にかけて現れる。肩関節そのものの著明な腫脹や前胸部にまで及ぶ皮下出血斑は生じにくく、肘屈曲力の低下も軽度にとどまる。本例の所見とは合わない。
ポイント
  • 高齢女性+手を衝いて転倒+肩の著明な腫脹+上腕から前胸部に広がる皮下出血斑=上腕骨外科頸骨折を第一に考える。
  • 外科頸=解剖頸の遠位、大結節・小結節より下のくびれた部分。関節包は解剖頸に付着するため、外科頸骨折は関節包外の骨折となり出血が皮下に広がる。
  • 嵌入型では骨折端がかみ合うため、異常可動性・軋轢音を触れず自動運動もわずかに可能。所見が乏しいことは骨折の否定にならない。
  • 皮下出血斑は重力に従って上腕内側から側胸部・前胸部へ広がるため、受傷から時間が経つほど範囲が拡大する。
  • 外科頸の後面を腋窩神経が回るため、外科頸骨折では腋窩神経損傷(三角筋麻痺・肩外側の感覚障害)を必ず確認する。整復・固定の前後でチェックし、末梢の血行・感覚も併せてみる。
  • 脱臼との鑑別は弾発性固定と三角筋部の膨隆消失・肩峰突出の有無で行う。
  • 異常可動性を確認する目的で肩を動かさず、患肢を体幹に固定してX線評価を医師に依頼する。
比較表
疾患受傷者・機序腫脹・皮下出血自動運動特徴的所見
上腕骨外科頸骨折高齢者、手を衝いた転倒(介達外力)肩部に著明、上腕〜側胸部・前胸部へ広がる(関節包外骨折)わずかに可能(嵌入型)嵌入型では異常可動性・軋轢音を欠く。腋窩神経損傷に注意
腱板断裂中高年、転倒や反復する挙上動作限局的、広範な皮下出血はまれ自動外転が困難、他動は保たれる有痛弧、ドロップアームサイン
肩関節烏口下脱臼全年齢、外転・外旋・伸展の強制肩前方が主ほぼ不能(弾発性固定)三角筋部膨隆消失、肩峰突出、烏口突起下に骨頭。腋窩神経損傷に注意
上腕二頭筋長頭腱断裂中高年、挙上時の急な収縮上腕前面〜肘窩おおむね可能上腕前面の瘤状膨隆(ポパイ変形)
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