学習トップ理由で解く 柔道整復師一般臨床医学 ▸ §21 臨床実地問題 / QJ30P045

理由で解く 柔道整復師

QJ30P045 一般臨床医学

出典:第30回柔道整復師国家試験(2022)午後 問45
問題
60歳の男性。糖尿病で1日4回インスリン注射を行っている。施術中に眠気を訴え生あくびをするようになった。皮膚は湿潤し、頻脈が認められた。まず行うべきことはどれか。
選択肢
1 昼寝
2 飲水
3 砂糖服用
4 インスリン自己注射
解答
正解3(砂糖服用)
解説

インスリン治療中の患者に生あくび・眠気が現れ、皮膚が湿潤(冷汗)し頻脈を伴う――低血糖発作の典型像です。意識があり自分で飲み込めるうちに、まず砂糖(糖分)を経口摂取させます。

低血糖の症状は二段階で現れます。まず血糖低下を感知した体がアドレナリンなどを放出し、発汗(冷汗)・動悸や頻脈・手指振戦・顔面蒼白・強い空腹感といった交感神経症状が出ます。さらに血糖が下がると、ブドウ糖をほぼ唯一のエネルギー源とする脳が機能低下を起こし、生あくび・眠気・集中力低下・頭痛・異常行動、やがてけいれんや昏睡へ進みます。本例の「眠気と生あくび」は中枢神経症状、「皮膚湿潤と頻脈」は交感神経症状で、両者がそろっているため低血糖はかなり進行しつつある段階といえます。低血糖は放置すると不可逆的な脳障害に至りうるため、判断を待たずに糖を補うのが原則です(血糖値が測れなくても、疑ったら糖を与えてよい)。具体的にはブドウ糖10g(またはブドウ糖を含む清涼飲料水150〜200mL)、砂糖(ショ糖)なら20gを摂らせ、10〜15分後に症状を再確認し、改善がなければ同量をもう一度与えるとともに救急要請を考えます。α-グルコシダーゼ阻害薬を併用している患者では砂糖(ショ糖)の分解・吸収が遅れるため、ブドウ糖でなければ効きが悪い点も押さえておきましょう。意識が悪く飲み込めないときは無理に飲ませず(誤嚥の危険)、直ちに救急要請します。回復しても施術は中止して安静にし、食事や注射のタイミングを確認したうえで主治医への連絡・受診を勧めます。

✓ 3. 正しい
砂糖服用
意識があり嚥下できる状態なので、経口で糖を補うのが最も速く、確実で、安全な対応です。糖が吸収されて血糖が上がれば、冷汗・頻脈も眠気も比較的短時間で改善します。低血糖か高血糖か迷う場面でも、糖を与えて困るのは高血糖側であっても短時間なら害は限定的である一方、低血糖の見逃しは脳障害に直結するため、「疑ったら糖」が現場の原則になります。量の目安はブドウ糖10g(砂糖なら20g)で、摂取後は10〜15分で再評価し、改善しなければ同量の追加と救急要請を行います。
✗ 1. 誤り
昼寝
眠気は「疲れ」ではなく、脳のブドウ糖不足を示す危険なサインです。寝かせて様子を見ると、意識障害への進行に気づけず対応が遅れます。眠そうにしていても声をかけて反応を確かめ、飲み込めるうちに糖を摂らせるのが正しい行動です。
✗ 2. 誤り
飲水
水を飲んでも血糖は上がらないため、症状は改善しません。口渇・多飲・多尿が前面に出て脱水が主体となるのは高血糖(糖尿病ケトアシドーシス=DKA、高浸透圧高血糖状態=HHS)のときで、その場合は皮膚が乾燥します。なお呼気のアセトン臭や深く大きい呼吸(Kussmaul呼吸)は、ケトン体産生が高度なDKAでみられる所見です。HHSは著明なケトーシス・アシドーシスを欠くことが定義的な特徴で、アセトン臭もKussmaul呼吸も原則としてみられず、著明な脱水と意識障害が前面に出ます。本例は冷汗による皮膚湿潤と頻脈であり、低血糖の側です。与えるなら水ではなく糖分を含むもの(砂糖水、ジュースなど)にします。
✗ 4. 誤り
インスリン自己注射
インスリンは血糖を下げる薬なので、低血糖の場面で追加すれば症状は一気に悪化し、昏睡に至る危険があります。「糖尿病=インスリン」と条件反射で結びつけず、いま起きているのが高血糖か低血糖かを症状から判断することが大切です。この場面で必要なのは血糖を下げることではなく、上げることです。
ポイント
  • インスリンやSU薬を使用している人の冷汗・動悸/頻脈・手指振戦・顔面蒼白(交感神経症状)と生あくび・眠気・異常行動(中枢神経症状)は、まず低血糖を疑う。
  • 症状は交感神経症状が先行し、進行すると中枢神経症状、さらにけいれん・昏睡へ至る。放置すれば不可逆的な脳障害を招く。
  • 意識があり飲み込めるなら、直ちにブドウ糖10g(またはブドウ糖を含む清涼飲料水150〜200mL)、砂糖(ショ糖)なら20gを経口。10〜15分後に再評価し、改善しなければ同量を追加+救急要請。
  • α-グルコシダーゼ阻害薬を併用している場合は、ショ糖(砂糖)では分解が遅れるためブドウ糖を用いる。
  • アセトン臭・Kussmaul呼吸は高血糖のうちDKAに特徴的な所見であり、HHSでは原則みられない(HHSは著明な脱水と意識障害が前面)。
  • 意識障害があるときは誤嚥を避けるため無理に飲ませず救急要請。回復後も施術は中止し安静とし、主治医への連絡・受診を勧める。
比較表
項目低血糖(本症例)高血糖(糖尿病ケトアシドーシス=DKA/高浸透圧高血糖状態=HHS)
発症の速さ急激(分〜時間)緩徐(数時間〜数日)
誘因インスリン・経口血糖降下薬の過量、食事の遅れ・欠食、過度の運動インスリンの中断(DKAに多い)、感染・脱水、過食
皮膚湿潤(冷汗)・蒼白乾燥・発赤傾向
脈拍頻脈頻脈(脱水による)だが弱い
特徴的な症状空腹感、手指振戦、生あくび、眠気、異常行動口渇・多飲・多尿、悪心・嘔吐/DKAでは深く大きい呼吸(Kussmaul呼吸)とアセトン臭/HHSでは著明な脱水と意識障害が前面(ケトーシスは軽度でアセトン臭は原則なし)
初期対応糖の経口摂取(飲めなければ救急要請)救急要請・医療機関での輸液とインスリン治療
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