学習トップ理由で解く 柔道整復師一般臨床医学 ▸ §21 臨床実地問題 / QJ31P044

理由で解く 柔道整復師

QJ31P044 一般臨床医学

出典:第31回柔道整復師国家試験(2023)午後 問44
問題
40歳の女性。1か月前から動悸と手の震えがあり、10日前からしゃがんだときに手すりをつかまないと立ち上がりにくくなった。脈拍112拍/分・整、頸部の腫大と眼球突出がある。考えられる診断はどれか。
選択肢
1 橋本病
2 バセドウ (Basedow)病
3 原発性アルドステロン症
4 パーキンソン(Parkinson) 病
解答
正解2(バセドウ (Basedow)病)
解説

動悸・手の震えに加えて、頻脈・頸部(甲状腺)の腫大・眼球突出がそろっており、甲状腺ホルモンが過剰に働いている状態と読み取れます。しゃがんだ姿勢から手すりなしで立ち上がれないのも、甲状腺中毒に伴う近位筋の筋力低下として一続きに説明できます。

バセドウ病では、TSH受容体に対する自己抗体(TRAb)が受容体を刺激し続けるため、下垂体からのTSHが抑えられていても甲状腺ホルモンがつくられ続けます。過剰な甲状腺ホルモンは全身の代謝を高め、心臓では交感神経(β受容体)の効きをよくするので、動悸・頻脈・細かく速い手指の震えが現れます。眼球突出は、眼窩の脂肪組織や外眼筋に自己免疫性の炎症が起きて容積が増すために生じるもので、甲状腺腫・眼球突出・頻脈の3つはメルゼブルクの三徴と呼ばれます。さらに骨格筋ではタンパクの分解が進み、体幹に近い近位筋(腸腰筋・大腿四頭筋など)から筋力が落ちるため、「しゃがむと立ち上がれない」「階段が上れない」「髪を洗う姿勢がつらい」といった訴えになります。20〜40歳代の女性に多い点も、本例の年齢・性別と矛盾しません。

✓ 2. 正しい
バセドウ (Basedow)病
甲状腺腫(頸部の腫大)・眼球突出・頻脈というメルゼブルクの三徴がそろい、動悸と手指振戦という代謝亢進・交感神経優位の症状も一致します。10日前からの「しゃがむと立ち上がりにくい」は甲状腺中毒性ミオパチーによる近位筋の筋力低下として説明でき、本例を最もよく説明する診断です。実際の確認は血液検査(FT4高値・TSH低値・TRAb陽性)で行われるため、こうした所見に気づいた場合は内分泌内科への受診をすすめます。
✗ 1. 誤り
橋本病
橋本病(慢性甲状腺炎)でも甲状腺は腫れますが、リンパ球の浸潤で甲状腺組織が壊れていく病気で、進行すると機能低下側に傾きます。典型像は徐脈・寒がり・体重増加・皮膚の乾燥・意欲低下・便秘で、本例の動悸や頻脈とは方向が逆です。眼球突出はTSH受容体抗体に関連した眼窩の変化なので、橋本病では基本的にみられません。
✗ 3. 誤り
原発性アルドステロン症
副腎皮質からアルドステロンが自律的に過剰分泌される病態で、ナトリウム貯留による高血圧と、カリウム排泄が進むことによる低カリウム血症が中心です。低カリウム血症で脱力や多尿が出ることはありますが、頸部の腫大・眼球突出・手指振戦は説明できません。本例のように甲状腺の所見と眼の所見がそろう場合は、まず甲状腺の病態を考えます。
✗ 4. 誤り
パーキンソン(Parkinson) 病
安静時振戦・筋強剛・無動・姿勢反射障害を四徴とし、立ち上がりや歩き出しが遅くなる点だけは似た印象になります。しかしパーキンソン病の震えは手を動かさずに置いているときに強くなるのが特徴で、本例のような頻脈・動悸は伴わず、頸部の腫大や眼球突出も説明できません。好発年齢も50〜60歳代以降が中心で、40歳女性に1か月の経過で生じた本例とは合いません。
ポイント
  • メルゼブルクの三徴=甲状腺腫・眼球突出・頻脈。この3つがそろえばバセドウ病を第一に考える。
  • 原因は自己抗体(TRAb)によるTSH受容体の持続刺激。だから「TSHは低いのに甲状腺ホルモンは高い」という組み合わせになる。
  • 甲状腺中毒性ミオパチーは近位筋優位。「しゃがむと立てない」「階段が上れない」「洗髪がつらい」は近位筋筋力低下のサイン。
  • 震えの質で見分ける。バセドウ病は姿勢を保つときに出る細かく速い震え、パーキンソン病は安静時に出る比較的ゆっくりした震え。
  • 20〜40歳代の女性に好発し、動悸・発汗・体重減少・暑がり・易疲労を伴いやすい。施術所でこれらに気づいたら、頸部への強い刺激や過度な運動負荷を避け、内分泌内科の受診をすすめる。
比較表
項目バセドウ病橋本病(慢性甲状腺炎)
甲状腺機能亢進正常〜低下(経過中に一過性の亢進をみることもある)
主な機序TSH受容体抗体(TRAb)による受容体の持続刺激リンパ球浸潤による甲状腺組織の破壊
脈拍・体温感覚頻脈、暑がり、発汗増加徐脈、寒がり
体重・食欲食べても体重減少体重増加、食欲低下
精神・活動性いらいら、落ち着かない、不眠意欲低下、動作緩慢、眠気
眼球突出みられる原則みられない
筋症状近位筋優位の筋力低下(立ち上がり困難)筋のこわばり、易疲労感
好発20〜40歳代の女性30〜50歳代の女性
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