学習トップ理由で解く 柔道整復師一般臨床医学 ▸ §21 臨床実地問題 / QJ30P044

理由で解く 柔道整復師

QJ30P044 一般臨床医学

出典:第30回柔道整復師国家試験(2022)午後 問44
問題
35歳の男性。7月の日曜日に会社の野球チームの練習に参加していた。当日は晴天で気温 32°C、湿度80%であった。守備中に頭痛と倦怠感を訴えて倒れ、救護室に運ばれた。意識はあるが、体は熱く、多量の発汗を認めた。正しい対応はどれか。
選択肢
1 酸素吸入を行う。
2 身体を毛布で温める。
3 ブドウ糖を補給する。
4 ナトリウムを含んだ水分を補給する。
解答
正解4(ナトリウムを含んだ水分を補給する。)
解説

高温多湿の環境での運動中に発症し、意識は保たれ、皮膚は熱く多量の発汗が続いている――典型的な熱中症(熱疲労の病像)です。大量の汗で失われたのは水と塩分(ナトリウム)の両方なので、ナトリウムを含んだ水分を補うのが正しい対応になります。

人は汗を蒸発させ、その気化熱で体温を下げています。ところが湿度80%という環境では汗が蒸発しにくく、汗をかいても放熱が進みません。気温32°Cはそれ自体で危険域とまでは言えなくても、湿度が高ければ体に熱がこもり、熱中症は容易に起こります(暑さの評価に気温だけでなくWBGT=湿球黒球温度を用いるのはこのためです)。大量発汗が続くと水分とともにナトリウムが失われ、循環血液量が減少して、頭痛・倦怠感・脱力・めまい・吐き気が現れます。本例のように意識が保たれ、発汗もあることは、体温調節がまだ働いている証拠であり、この時点で熱射病は否定されます。そのうえで頭痛・倦怠感という脱水・循環血液量減少による症状がそろっているので、熱疲労と判断します。これに対し、発汗が止まって皮膚が乾き、高体温と意識障害をきたした状態が熱射病(重症)で、直ちに救急要請と積極的冷却が必要です。現場での手順は、①涼しい風通しのよい場所へ移す、②衣服をゆるめる、③送風・霧吹き・頸部/腋窩/鼠径部の冷却で体温を下げる、④意識があり自力で飲めるならナトリウムを含む水分(経口補水液など)を飲ませる、⑤自力で飲めない・意識がおかしい・改善しないときはためらわず救急要請、の順です。

✓ 4. 正しい
ナトリウムを含んだ水分を補給する。
大量発汗では水だけでなくナトリウムも失われています。真水やお茶だけを大量に飲むと血液が薄まって低ナトリウム血症となり、かえって筋のけいれん(熱けいれん)や倦怠感を招きます。意識があり自分で飲み込める本例では、経口補水液やスポーツドリンク、あるいは水に食塩を加えたもの(0.1〜0.2%程度の食塩水)を、涼所で体を冷やしながら少しずつ飲ませます。これが失われた体液の組成に最も近い補い方です。
✗ 1. 誤り
酸素吸入を行う。
呼吸困難やチアノーゼなど低酸素を示す所見はなく、この患者の問題は「酸素が足りない」ことではなく「水と塩分が足りず、熱がこもっている」ことです。酸素を吸わせても減った循環血液量は戻らず、上がった体温も下がりません。まず行うべきは涼所への移動と冷却、そしてナトリウムを含む水分の補給です。
✗ 2. 誤り
身体を毛布で温める。
「倒れた人は保温する」という反射的な発想が働きやすい選択肢ですが、本例は体が熱く熱がこもっている状態です。毛布で覆えば放熱が妨げられ、体温はさらに上がります。逆に、衣服をゆるめて風を当て、頸部・腋窩・鼠径部(太い血管が体表近くを走る部位)を冷やして体温を下げるのが正しい方向です。保温が意味を持つのは、寒冷環境やショックで末梢が冷たくなっている場面であり、本例とは病態が逆だと整理しておきましょう。
✗ 3. 誤り
ブドウ糖を補給する。
ブドウ糖が最優先になるのは低血糖のときですが、本例には糖尿病治療歴の記載がなく、症状も高温多湿下での大量発汗に伴うものです。糖だけを与えても失われたナトリウムは補えません。なお経口補水液に糖が含まれているのは、小腸でナトリウムとブドウ糖が一緒に吸収される仕組み(Na-グルコース共輸送)を利用して水分吸収を高めるためで、主役はあくまでナトリウムです。「糖を含んだ塩分入りの水」を選ぶ、と覚えると混乱しません。
ポイント
  • 意識清明で発汗が保たれていれば熱射病ではない(熱失神・熱けいれん・熱疲労のいずれか)。そのうち頭痛・倦怠感・脱力・めまいを伴い、水と塩分の喪失による脱水・循環血液量減少を背景とするものが熱疲労。
  • 意識障害+発汗停止・皮膚乾燥・高体温=熱射病。直ちに救急要請と積極的冷却を要する。
  • 湿度が高いと汗が蒸発せず気化熱で放熱できない。気温だけでなく湿度を含めた評価(WBGT)で危険度を判断する。
  • 大量発汗では水とナトリウムの両方が失われる。水やお茶だけを大量に飲むと低ナトリウム血症となり、熱けいれんの誘因になる。
  • 現場の手順は「涼所へ移す → 衣服をゆるめ体表(頸部・腋窩・鼠径部)を冷やす → ナトリウムを含む水分を経口」。
  • 自力で飲めない、嘔吐する、意識がはっきりしない、休ませても改善しない場合は経口補給にこだわらず救急要請し、医療機関での輸液につなげる。
比較表
病型主な機序発汗意識体温対応
熱失神皮膚血管拡張による一過性の血圧低下・脳血流低下あり一過性に消失(すぐ回復)ほぼ正常涼所で仰臥・下肢挙上、水分補給
熱けいれん発汗で失った塩分を水分のみで補い低ナトリウム血症あり清明ほぼ正常涼所へ移し、0.1〜0.2%食塩水/経口補水液を経口(重症・経口不能なら医療機関で0.9%生理食塩水の輸液)
熱疲労(本症例)水と塩分の喪失による脱水・循環血液量減少多量にあり清明やや上昇涼所へ移動・冷却+ナトリウムを含む水分(0.1〜0.2%食塩水/経口補水液)
熱射病体温調節の破綻・中枢神経障害停止し皮膚は乾燥障害(意識混濁〜昏睡)著明に上昇(40°C前後以上)直ちに救急要請、全身の積極的冷却
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