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理由で解く 柔道整復師

QJ29P044 一般臨床医学

出典:第29回柔道整復師国家試験(2021)午後 問44
問題
70歳の男性。建築業で現在も喫煙している。左上肢痛を訴えている。整形外科では、頸椎症や肩関節症はないと診断されている。、可能性が低いのはどれか。
選択肢
1 肺癌の腕神経叢浸潤
2 帯状疱疹後神経痛
3 胸髄腫瘍
4 筋肉痛
解答
正解3(胸髄腫瘍)
解説

上肢の感覚・運動を担うのは腕神経叢で、これは C5〜Th1(頸髄下位+胸髄最上位)の前枝が集まって構成されます。一方、胸髄の腫瘍で前面に出るのは病変高位に一致した帯状の胸背部痛と、その高位より下の感覚障害・対麻痺・膀胱直腸障害です。一側上肢の痛みだけを主症状とする胸髄腫瘍はまれで、4 つの中では最も可能性が低くなります。

頸椎症・肩関節症が否定された上肢痛では、「腕神経叢そのものに何かが起きていないか」「痛みが皮膚分節(デルマトーム)に沿っていないか」「筋・軟部組織への負荷で説明できないか」の順に考えると整理できます。腕神経叢の下神経幹(C8〜Th1)は肺尖部(胸膜頂)と星状神経節のすぐ隣を走るため、肺尖部にできた肺癌が直接浸潤すると、肩から上肢内側にかけての強い持続痛を生じます(Pancoast 型)。長期喫煙者の高齢男性という背景は、この病態を強く後押しします。加齢で細胞性免疫が低下すると帯状疱疹の発症率が上がり、C5〜Th1 領域に生じれば片側上肢の神経障害性疼痛が残ります。建築業という反復挙上・重量物取り扱いの多い職業では、筋・筋膜性の痛みも日常的に起こります。これに対し胸髄は Th1〜Th12 の 12 髄節からなり、分節性に支配するのは体幹(肋間筋・腹壁と、それに対応する皮膚分節)です。胸髄の病変で両下肢が痙性麻痺になるのは、そこを縦に走る皮質脊髄路や上行性伝導路が断たれるためであって、下肢そのものの分節支配は腰仙髄(L1〜S3)にあります。上肢についても、上肢から中枢へ向かう上行路(求心路)も上肢へ向かう下行路(遠心路)も、脊髄を出入りするのは C5〜Th1 の高さであり、Th2 より下の胸髄が侵されても上肢の分節症状は生じません。こうした構造から、胸髄腫瘍の典型像は「病変高位に一致した帯状(肋間神経領域)の胸背部痛+その高位以下の感覚障害・対麻痺・膀胱直腸障害」となり、一側上肢痛だけが前面に出ることはまずありません。

✗ 1. 可能性は高い(答えではない)
肺癌の腕神経叢浸潤
70 歳・現在も喫煙継続という背景に、肺尖部肺癌(Pancoast 型)が腕神経叢下神経幹へ浸潤する像がよく合致します。肩〜上肢内側(C8〜Th1 領域)の夜間に増悪する持続痛、同側の Horner 症候群(縮瞳・眼瞼下垂・発汗低下)、手内在筋の萎縮が手がかりです。頸椎・肩関節に原因がないと言われた上肢痛でこそ、真っ先に想起すべき病態です。
✗ 2. 可能性はある(答えではない)
帯状疱疹後神経痛
帯状疱疹は加齢とともに増え、70 歳代は好発年齢です。C5〜Th1 の後根神経節に潜伏していたウイルスが再活性化すれば、その皮膚分節に沿った片側性の灼熱痛・電撃痛が上肢に出ます。皮疹が治った後も痛みだけが残るのが帯状疱疹後神経痛で、画像や整形外科的診察では異常が出ないため、この症例像とは矛盾しません。
✓ 3. 可能性が低い(これが答え)
胸髄腫瘍
上肢へ出入りする神経根は C5〜Th1、すなわち頸髄下位から胸髄最上位までの高さに限られます。胸髄腫瘍で前面に出るのは、病変高位に一致した帯状(肋間神経領域)の胸背部痛と、その高位より下の感覚障害・両下肢の痙性麻痺・膀胱直腸障害です。一側上肢のみの痛みを主症状とする胸髄病変はまれで、4 つの中では最も可能性が低くなります。なお上位胸髄(Th1)レベルの髄外腫瘍であれば、Th1 神経根が圧迫されて上肢内側の痛み・手内在筋の萎縮・Horner 症候群を伴いうる(選択肢 1 の Pancoast 腫瘍と同じ機序)のですが、その場合でも胸背部痛や脊髄症状を欠くことはまずなく、「上肢痛だけ」という本症例の訴え方とは異なります。
✗ 4. 可能性はある(答えではない)
筋肉痛
建築業で現役という就労状況から、上肢の反復挙上や重量物の保持による筋・筋膜性疼痛は十分に起こり得ます。使った筋に一致した圧痛と運動時痛があり、作業内容と時間経過が対応し、安静で軽快するのが特徴です。ありふれた原因なので「可能性が低い」とは言えません。ただし本症例のように喫煙歴のある高齢者では、筋肉痛と決めつけずに経過を追い、改善しない痛みや夜間痛があれば医療機関での画像評価につなぐ姿勢が大切です。
ポイント
  • 上肢の運動・感覚は腕神経叢(C5〜Th1)が担う。C5〜C8 は頸髄、Th1 は胸髄最上位の髄節で、胸髄は Th1〜Th12 の 12 髄節からなる。
  • 胸髄が分節性に支配するのは体幹(肋間筋・腹壁と対応する皮膚分節)。胸髄病変で両下肢が麻痺するのは縦走する伝導路が断たれるためで、下肢の分節支配は腰仙髄(L1〜S3)にある。
  • 喫煙歴のある高齢者の一側上肢痛で、頸椎症・肩関節症が否定されたら肺尖部肺癌(Pancoast 型)の腕神経叢浸潤を疑う。
  • Pancoast 型で押さえる所見は、上肢内側(C8〜Th1)の持続痛・Horner 症候群・手内在筋の萎縮。
  • 帯状疱疹後神経痛は皮膚分節に一致した片側性の痛みで、高齢者ほど残りやすい。先行する帯状の皮疹の有無を必ず聴取する。
  • 胸髄腫瘍は帯状の胸背部痛+病変高位以下の感覚障害・対麻痺・膀胱直腸障害という組み合わせで気づかれる。一側上肢痛だけを主症状とすることはまれ。
  • 施術所での対応:安静時痛・夜間痛・体重減少・Horner 徴候・神経学的脱落があれば施術を優先せず、速やかに医療機関受診を勧める。
比較表
選択肢の病態痛みの部位・性質決め手になる所見本症例での可能性
1. 肺癌の腕神経叢浸潤肩〜上肢内側(C8〜Th1)の持続痛、夜間に増悪長期喫煙歴、Horner 症候群、手内在筋の萎縮、胸部画像での肺尖部陰影高い
2. 帯状疱疹後神経痛一つの皮膚分節に沿う片側性の灼熱痛・電撃痛先行する片側帯状の皮疹・水疱の既往、痛覚過敏・アロディニアある
3. 胸髄腫瘍病変高位に一致した帯状(肋間)の胸背部痛が主。一側上肢痛だけが前面に出ることはまれ病変高位以下の感覚障害、両下肢の痙性麻痺、膀胱直腸障害低い(=答え)
4. 筋肉痛使った筋に一致した圧痛・運動時痛作業内容・時間経過と対応し、安静で軽快ある
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