学習トップ理由で解く 柔道整復師外科学概論 ▸ §9 麻酔 / QJ28P053

理由で解く 柔道整復師

QJ28P053 外科学概論

出典:第28回柔道整復師国家試験(2020)午後 問53
問題
全身麻酔の導入で正しいのはどれか。
選択肢
1 患者の不安を除去し鎮静を図る。
2 抗コリン剤投与は気道分泌を促す。
3 筋弛緩薬は気管内挿管を困難にする。
4 栄養管理のため直前に経口摂取を行う。
解答
正解1(患者の不安を除去し鎮静を図る。)
解説

設問は「全身麻酔の導入で正しいのはどれか」。正解は1で、麻酔前投薬の第一の目的は患者の不安を取り除いて鎮静を図ることです。

麻酔導入は患者にとって最も不安の強い場面で、不安と興奮は交感神経を緊張させて頻脈・血圧上昇・不整脈を招き、麻酔薬の必要量も増やします。そこで入室前の前投薬としてベンゾジアゼピン系薬などで鎮静し(選択肢1)、抗コリン薬で気道分泌と迷走神経反射を抑え(選択肢2)、術前指示として誤嚥を防ぐ所定時間の絶飲食を守らせます(選択肢4)。この3つは「前投薬・術前指示は導入を安全・円滑にするために行う」という原則から作用の向きを判断できます。一方、選択肢3の筋弛緩薬は前投薬ではなく、入室後の導入時に静脈麻酔薬に続けて投与する薬で、声門周囲を弛緩させて挿管を容易にするものです。誤りの3肢はいずれも作用の向きが逆に書かれているのが共通の特徴です。

✓ 1. 正しい
患者の不安を除去し鎮静を図る。
不安の除去・鎮静は前投薬の代表的な目的です。交感神経の過緊張による循環変動を抑え、導入をなめらかにし、麻酔薬の必要量も減らせます。薬剤だけでなく、術前訪問で流れを説明して見通しを持ってもらうこと自体が有効な鎮静手段になります。
✗ 2. 誤り
抗コリン剤投与は気道分泌を促す。
作用が逆です。アトロピンなどの抗コリン薬はムスカリン受容体を遮断して唾液・気道分泌を抑制します。分泌物が多いと気道が閉塞したり、喉頭痙攣や挿管時の視野不良の原因になるため、これを減らすのがねらいです。あわせて迷走神経反射による徐脈も予防できます。抗コリン薬は入室前に投与する前投薬に分類されます。
✗ 3. 誤り
筋弛緩薬は気管内挿管を困難にする。
これも逆で、筋弛緩薬は挿管を容易にします。咬筋・頸部筋・声帯周囲が弛緩することで開口と喉頭展開がしやすくなり、咳嗽反射や喉頭痙攣も抑えられて、声門損傷のリスクが下がります。ただし自発呼吸が止まるため、マスク換気ができることを確認し、酸素化・吸引・気道確保器具を整えたうえで使うのが手順です。なお分類上の注意として、筋弛緩薬は前投薬ではなく「導入時に投与する薬」です(入室後、静脈麻酔薬で意識を消失させてから投与する)。「前投薬でないのはどれか」という問い方では、ここが正答の分かれ目になります。
✗ 4. 誤り
栄養管理のため直前に経口摂取を行う。
全身麻酔では意識と気道反射(咳・嚥下)が失われるため、胃内容が逆流すると気管へ流れ込み、誤嚥性肺炎(酸性胃液による化学性肺炎=メンデルソン症候群)や窒息を起こします。したがって予定手術では術前に所定の絶飲食期間を設けます(固形物と清澄水で時間が異なり、具体的な時間は施設の規定・ガイドラインに従います)。栄養や水分が必要な場合は経口ではなく輸液で補います。
ポイント
  • 前投薬の目的は「不安の除去・鎮静」「気道分泌の抑制」「迷走神経反射(徐脈)の予防」「鎮痛」「誤嚥リスクの軽減」。
  • 抗コリン薬(アトロピンなど)は分泌を抑える。促すのではない。徐脈予防も同時に担う。前投薬に含まれる。
  • 筋弛緩薬は挿管を容易にする。ただし自発呼吸が止まるので、換気の準備を整えてから投与する。
  • 筋弛緩薬は前投薬ではなく「導入時薬」。前投薬=入室前に投与、静脈麻酔薬・筋弛緩薬=入室後の導入時に投与、という線引きで覚える(「前投薬でないのはどれか」型で問われる)。
  • 全身麻酔前は絶飲食が原則(術前指示)。気道反射が消えるため、胃内容の逆流=誤嚥性肺炎・窒息に直結する。
  • 誤り肢は「作用の向きが逆」に作られていることが多い。目的(導入を安全にする)から向きを逆算する。
比較表
薬剤・指示区分(いつ行うか)代表例ねらい
鎮静薬前投薬(入室前)ベンゾジアゼピン系など不安の除去・鎮静、循環変動の抑制、麻酔薬必要量の減少
抗コリン薬前投薬(入室前)アトロピン、スコポラミンなど唾液・気道分泌の抑制、迷走神経反射(徐脈)の予防
鎮痛薬前投薬(入室前)オピオイドなど導入時・挿管時の疼痛と反応の軽減
制酸・胃酸分泌抑制薬前投薬(入室前)H2受容体拮抗薬など胃液量を減らしpHを上げ、誤嚥時の肺障害を軽くする
絶飲食術前指示胃内容の逆流・誤嚥(メンデルソン症候群)・窒息の予防
静脈麻酔薬導入時(前投薬ではない)プロポフォール、チオペンタールなどすみやかに意識を消失させる
筋弛緩薬導入時(前投薬ではない)ロクロニウム、スキサメトニウムなど声門展開と気管内挿管を容易にし、喉頭痙攣・声門損傷を防ぐ

※上4段と絶飲食が前投薬・術前指示、下2段は入室後の導入時に投与する薬です。筋弛緩薬を前投薬に含めないことが、「前投薬はどれか/前投薬でないのはどれか」型の設問での得点差になります。

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