学習トップ理由で解く 柔道整復師整形外科学 ▸ §25 臨床実地問題 / QJ27P065

理由で解く 柔道整復師

QJ27P065 整形外科学

出典:第27回柔道整復師国家試験(2019)午後 問65
問題
70歳の女性。転倒して大腿骨近位部を骨折した。二重エネルギーエックス線吸収法による腰椎の骨密度は若年成人平均値の78%であった。骨粗鬆症の薬物治療を開始する判断で正しいのはどれか。
選択肢
1 今すぐに開始する。
2 喫煙歴があれば開始する。
3 脆弱性骨折の家族歴があれば開始する。
4 今後骨密度の低下が生じれば開始する。
解答
正解1(今すぐに開始する。)
解説

大腿骨近位部骨折という脆弱性骨折がすでに起きている以上、骨密度の数値にかかわらず骨粗鬆症と診断され、薬物治療の開始基準を満たす。待つ理由はなく、正答は1。

第27回(2019年3月実施)の時点で用いられていた原発性骨粗鬆症の診断基準(2012年度改訂版)と骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版では、判断の入口は「脆弱性骨折があるかどうか」である。椎体骨折または大腿骨近位部骨折があれば、骨密度の値を問わず骨粗鬆症と診断する。それ以外の部位の脆弱性骨折であれば骨密度が若年成人平均値(YAM)の80%未満で、脆弱性骨折がなければYAMの70%以下(または−2.5SD以下)で診断する。本症例はYAM 78%で、骨折がなければ「骨量減少」に相当する値だが、転倒という軽微な外力で大腿骨近位部を骨折している。この骨折自体が骨強度低下の何よりの証拠であり、診断は骨密度を待たずに確定する。薬物治療の開始基準も同じ枠組みで、椎体骨折・大腿骨近位部骨折があれば直ちに開始する。脆弱性骨折がない場合はYAM 70%以下(−2.5SD以下)で開始し、YAM 70%超80%未満(−1.0〜−2.5SD)の境界域に限っては、「大腿骨近位部骨折の家族歴あり」または「FRAX®による10年間の主要骨折発生確率15%以上(75歳未満に適用)」のいずれかを満たしたときに開始する、と条件が限定されている。喫煙や飲酒はこのFRAX®を構成する危険因子であって、それ単独で開始を決める基準ではない点に注意したい。さらに大腿骨近位部骨折の後は、反対側の大腿骨や椎体に続けて骨折が起こる危険が生涯で最も高まる時期であり、骨折の治療と並行して薬物治療、カルシウムとビタミンDの確保、転倒予防、荷重をかける運動を同時に進めることが再骨折を減らす。

✓ 1. 正しい
今すぐに開始する。
大腿骨近位部骨折は、椎体骨折とならんで「これがあれば骨密度を問わず骨粗鬆症」とされる脆弱性骨折である。したがって腰椎骨密度がYAMの78%であっても診断は確定し、そのまま薬物治療の適応となる。危険因子の聴取やFRAX®の計算を経由するまでもなく、骨折の存在だけで開始基準を満たす点が要点である。続発骨折の危険が最も高いのは受傷後およそ1年の時期なので、この期間を治療なしで過ごさないことが重要になる。骨折の手術・リハビリテーションと並行して薬物治療を立ち上げ、あわせて転倒予防と栄養・運動の指導を行う。
✗ 2. 誤り
喫煙歴があれば開始する。
喫煙は骨折の危険因子であり、FRAX®の入力項目にも含まれる。しかし脆弱性骨折がなくYAM 70%超80%未満の境界域で開始条件とされているのは「大腿骨近位部骨折の家族歴あり」と「FRAX®の主要骨折確率15%以上(75歳未満)」の2つであって、喫煙はFRAX®の入力項目として境界域の判断に間接的に効くだけであり、それ単独では開始基準にならない。まして本症例はすでに大腿骨近位部骨折があるため、喫煙歴の有無を問わず開始基準を満たしている。喫煙歴があれば禁煙の支援は別途行うべきだが、治療開始の可否を左右する条件にはならない。
✗ 3. 誤り
脆弱性骨折の家族歴があれば開始する。
家族歴のうち「大腿骨近位部骨折の家族歴」は、脆弱性骨折がなく骨密度がYAM 70%超80%未満の境界域にある症例に限って、薬物治療開始の条件として定められているものである。本症例はその境界域の判断が問題になる場面ではなく、患者本人に大腿骨近位部骨折が生じているため、家族歴を確認するまでもなく治療対象となる。なお選択肢の文言は「脆弱性骨折の家族歴」と部位を限定しておらず、開始条件として定められた記載よりも緩い点にも注意したい。危険因子の聴取は治療内容や再骨折予防の計画を立てるうえで有用であって、この症例で開始の可否を決める条件ではない。
✗ 4. 誤り
今後骨密度の低下が生じれば開始する。
骨密度がさらに下がるのを待つという考え方だが、軽微な外力で大腿骨近位部が折れた時点で骨強度が低下していることはすでに明らかである。経過をみている間に反対側の大腿骨や椎体の骨折が起こりうるため、待機は再骨折の機会を与えることになる。骨密度測定は治療効果の判定や経過の把握に用い、開始の判断はいま起きている骨折に基づいて行う。
ポイント
  • 椎体骨折または大腿骨近位部骨折があれば、骨密度の値を問わず骨粗鬆症と診断し薬物治療を開始する(本症例)。
  • それ以外の部位の脆弱性骨折なら、骨密度がYAMの80%未満で骨粗鬆症と診断し薬物治療を開始。
  • 脆弱性骨折がなければ、YAMの70%以下(または−2.5SD以下)で骨粗鬆症と診断し薬物治療を開始。
  • 脆弱性骨折がなくYAM 70%超80%未満(−1.0〜−2.5SD)の境界域では、「大腿骨近位部骨折の家族歴あり」または「FRAX®の10年間の主要骨折発生確率15%以上(75歳未満に適用)」のいずれかを満たすときに開始する。喫煙・飲酒はFRAX®を構成する危険因子であって、それ単独では開始基準にならない。
  • YAM=若年成人平均値。78%は「骨量減少」域の数値だが、骨折の存在が診断を上書きする。
  • 大腿骨近位部骨折後は続発骨折の危険が最も高い。薬物治療+カルシウム・ビタミンD+転倒予防+運動を同時に進める。
比較表
脆弱性骨折骨密度(YAM比)判断
椎体骨折 または 大腿骨近位部骨折 あり問わない骨粗鬆症と診断し、直ちに薬物治療を開始(本症例)
その他の部位の脆弱性骨折 あり80%未満骨粗鬆症と診断し、薬物治療を開始
なし70%以下(−2.5SD以下)骨粗鬆症と診断し、薬物治療を開始
なし70%超80%未満(−1.0〜−2.5SD)の境界域「大腿骨近位部骨折の家族歴あり」または「FRAX®の主要骨折確率15%以上(75歳未満に適用)」のいずれかを満たせば薬物治療を開始(喫煙・飲酒はFRAX®を構成する危険因子であり、単独では開始基準にならない)
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