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理由で解く 柔道整復師

QJ26A113 衛生学・公衆衛生学

出典:第26回柔道整復師国家試験(2018)午前 問113
問題
近年の我が国の女性の部位別にみた悪性新生物の年齢調整死亡率(人口10万対)の推移で、昭和30年代と比較して減少傾向が著しい部位はどれか。
選択肢
1 気管、気管支および肺
2
3 乳房
4 大腸
解答
正解2(胃)
解説

昭和30年代の日本人女性でがん死亡の中心を占めていたのは胃がんで、その後の年齢調整死亡率の低下幅が全部位のなかで最も大きい。したがって正答は2である。

年齢調整死亡率は、基準人口(人口動態統計では昭和60年モデル人口)に当てはめて計算することで人口の高齢化の影響を取り除いた指標であり、「時代とともにその病気で死にやすくなったか/なりにくくなったか」を比べるのに適している。以下の数値は、起点も終点も昭和60年モデル人口による全年齢の年齢調整死亡率(人口10万対)に統一して示す。女性の胃がんは昭和30年代に人口10万対40〜50台と全部位中で突出して高かったが、以後ほぼ一貫して下がり続け、出題時点(第26回・2018年)に公表されていた直近値ではおよそ10万対10前後、当時のおよそ4〜5分の1の水準にまで低下している。低下の幅・比率とも全部位のなかで最大である。背景としては、冷蔵庫の普及によって塩蔵食品や漬物に頼る食生活から新鮮な野菜・果物中心へ変わったこと、上下水道など衛生環境の改善で若い世代のHelicobacter pylori感染率が大きく下がったこと、胃X線・内視鏡による検診が普及して早期発見・早期治療が進んだことが挙げられる。これに対し乳房・大腸・気管支肺は、食生活の欧米化、出産数の減少や初経年齢の低下(乳がん)、喫煙(肺がん)などを背景に、いずれも昭和30年代より高い水準にある。ただしこの3部位も増え方は一様ではなく、大腸は1990年代半ばをピークにやや低下、気管支肺は1990年代後半以降は横ばい〜緩やかな減少に転じており、乳房も1990年代後半から2000年代はいったん横ばいで推移したのち近年ふたたび増加に転じている。がんの推移を問われたら、まず設問の指標が粗死亡率か年齢調整死亡率か、基準人口と年齢区分(全年齢か75歳未満か)は何かを確認し、時代間の比較なら年齢調整死亡率で考える習慣をつけておきたい。

✓ 2. 正しい
昭和30年代の女性で最も高かった部位であり、その後の低下が最も著しい。食塩・塩蔵食品の摂取減少、H. pylori感染率の低下、検診による早期発見の3つが低下を支えた要因である。昭和60年モデル人口による全年齢の年齢調整死亡率で比べると、近年は4部位のなかで最も低い水準となり、乳房・大腸・気管、気管支および肺のいずれをも下回るようになった。ただし胃と大腸の差はわずかで、75歳未満年齢調整死亡率など基準を変えると4部位の並び順は入れ替わる。順位の丸暗記ではなく「大きく減った部位=胃」という向きで押さえるのが安全である。
✗ 1. 誤り
気管、気管支および肺
女性の肺がんの年齢調整死亡率は昭和30年代からむしろ大きく上昇し、1990年代後半以降は横ばいから緩やかな減少にとどまる。喫煙率の推移が男性ほど大きく動かなかったことも関係する。全年齢の年齢調整死亡率でみると出題時点でも胃を上回る水準にあり、昭和30年代と比べて減少が著しいとはいえない。
✗ 3. 誤り
乳房
昭和30年代以降に上昇し、1990年代後半から2000年代はいったん横ばいで推移したのち、近年ふたたび増加に転じた。4部位のなかで唯一、近年も増加に転じている部位である。出産数の減少、初産年齢の上昇、初経の早期化と閉経の遅延によるエストロゲン曝露期間の延長、食生活の欧米化と肥満などが背景にある。出題時点では女性のがん罹患数第1位であり、年齢調整死亡率でも胃を上回る(若い年齢層の死亡が多いため、75歳未満年齢調整死亡率でみれば4部位のなかで最も高い)。いずれにせよ「減少傾向が著しい」には当たらない。
✗ 4. 誤り
大腸
昭和30年代には低い水準だったが、食生活の欧米化(動物性脂肪・赤肉の増加、食物繊維の減少)とともに上昇した。年齢調整死亡率は1990年代半ばのピーク以降やや低下しているものの、昭和30年代と比べれば依然として高く、「減少傾向が著しい部位」には当たらない。
ポイント
  • 年齢調整死亡率は高齢化の影響を除いた指標。年次推移や地域比較にはこれを用い、粗死亡率と混同せず、設問の指標・基準人口(昭和60年モデル人口)・年齢区分(全年齢か75歳未満か)を先に確認する。
  • 女性の胃がんの年齢調整死亡率は昭和30年代の人口10万対40〜50台から、出題時点にはおよそ10前後(当時の4〜5分の1)へ低下し、減少幅は全部位で最大である。起点・終点とも昭和60年モデル人口による全年齢の値で、基準は揃えて比べる。
  • 胃がん減少の3本柱は、塩蔵食品の減少と冷蔵庫の普及、H. pylori感染率の低下、検診による早期発見・早期治療。
  • 乳房・大腸・気管支肺は昭和30年代より高水準。近年の推移は、乳房=横ばいを経てふたたび増加(4部位で唯一の増加)、大腸=1990年代半ばのピーク以降やや低下、気管支肺=1990年代後半以降は横ばい〜緩やかな減少。
  • 出題時点の女性では、全年齢の年齢調整死亡率は4部位のうち胃が最も低く、乳房・大腸・気管支肺のいずれをも下回る。ただし差は小さく、75歳未満の年齢調整死亡率でみれば乳房が最も高くなるなど基準で順位が変わるため、順位より増減の向きを押さえる。
  • 男性でも胃がんの年齢調整死亡率は同様に大きく低下している。性別を問わず胃がんの減少は日本のがん統計の代表的な傾向として押さえる。
比較表
女性・昭和60年モデル人口による全年齢の年齢調整死亡率(人口10万対)でみた比較
部位(女性)昭和30年代の位置づけ出題時点までの推移主な背景要因
最も高い(10万対40〜50台)ほぼ一貫して大きく低下(およそ10前後へ、当時の4〜5分の1)。減少幅は全部位で最大で、近年は4部位のなかで最も低い塩蔵食品の減少、H. pylori感染率低下、検診の普及
乳房低い昭和30年代以降増加。1990年代後半から2000年代は横ばいで、近年ふたたび増加に転じた(4部位で唯一の増加傾向。胃を上回る)出産数減少、初産年齢上昇、エストロゲン曝露期間の延長、肥満
大腸低い増加後、1990年代半ばをピークにやや低下(当時より高く、胃を上回る)食生活の欧米化、動物性脂肪増加・食物繊維減少
気管、気管支および肺低い大きく増加後、1990年代後半以降は横ばい〜緩やかな減少(当時より高く、胃を上回る)喫煙、受動喫煙、大気汚染
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