学習トップ理由で解く 柔道整復師柔道整復理論 ▸ §24 臨床実地問題 / QJ25P106

理由で解く 柔道整復師

QJ25P106 柔道整復理論

出典:第25回柔道整復師国家試験(2017)午後 問106
問題
16歳の男子。高校の野球部に所属している。7歳の時、ジャングルジムから転落し左肘骨折の既往歴がある。肘関節の屈曲で肘内側部から前腕尺側にかけてしびれがあり、握力も低下してきたため来所した。患肢は外反肘変形を呈している。考えられる所見はどれか。
選択肢
1 母指球筋の萎縮
2 フローマン徴候陽性
3 下垂手
4 示指・中指末節の感覚異常
解答
正解2(フローマン徴候陽性)
解説

小児期の肘の骨折後に残った外反肘を土台として、肘部管で尺骨神経が障害された遅発性尺骨神経麻痺と考えられます。したがって現れるのは尺骨神経支配領域の所見、すなわちフローマン徴候陽性です。

小児の上腕骨外顆骨折は骨片が回転して転位しやすく、偽関節や変形治癒を残して外反肘となることがあります。尺骨神経は上腕骨内側上顆の後方にある肘部管を通るため、外反肘では神経が常に引き伸ばされ、さらに肘を屈曲するたびに肘部管が狭くなって圧迫と摩擦を受けます。この負担が積み重なり、受傷から数年〜数十年を経て麻痺が現れるものを遅発性尺骨神経麻痺と呼びます。ここで整理しておきたいのが感覚の支配範囲です。尺骨神経は前腕には皮枝を出さず、その皮膚支配は掌側枝・背側枝による手部、すなわち手掌と手背の尺側・小指全体・環指尺側半に限られます。前腕内側(尺側)の皮膚を支配するのは内側神経束から分かれる内側前腕皮神経です。本例が訴える「肘内側部から前腕尺側にかけてのしびれ」は、肘部管で絞扼された神経幹そのものが刺激されて生じる自覚症状であり、皮膚支配領域の感覚脱失とは区別して考えます。運動面では骨間筋・母指内転筋・小指球筋といった手内在筋の筋力低下が起こり、握力やつまみ動作の低下として自覚されます。本例は「肘屈曲で誘発・悪化するしびれ」「肘内側から尺側に広がる症状分布」「外反肘変形」「握力低下」がそろって肘部管部での尺骨神経障害を指しており、筋萎縮が進む例では除圧の要否を判断する必要があるため、所見を記録したうえで整形外科への受診を勧め、肘を深く曲げたままの姿勢を長く続けない・肘の内側を机などで圧迫しないといった生活指導を併せて行います。

✓ 2. 正しい
フローマン徴候陽性
母指内転筋は尺骨神経支配です。麻痺すると母指と示指で紙を挟ませたときに内転力を出せず、正中神経支配の長母指屈筋を使って母指IP関節を曲げて代償します。この代償姿勢がフローマン徴候で、尺骨神経麻痺を示す代表的所見です。本例の握力・つまみ力の低下とも合致します。
✗ 1. 誤り
母指球筋の萎縮
母指球筋(短母指外転筋・母指対立筋など)は主に正中神経支配で、萎縮すれば猿手を呈します。尺骨神経麻痺で痩せるのは小指球筋と骨間筋、とくに第1背側骨間筋で、手は鷲手を呈します。障害されている神経の支配が異なるため、本例では考えにくい所見です。
✗ 3. 誤り
下垂手
手関節と手指を伸展できなくなる下垂手は橈骨神経麻痺の所見で、上腕骨骨幹部骨折などに伴って生じます。橈骨神経が障害されれば手指・手関節の伸展不能が前面に出て、感覚は手背橈側が鈍りますが、本例で問題になっているのは手内在筋の筋力低下による握力・つまみ力の低下であり、障害されている神経が異なります。
✗ 4. 誤り
示指・中指末節の感覚異常
示指・中指の末節掌側は正中神経の支配領域です。尺骨神経の皮膚支配は手部に限られ、手掌・手背の尺側、小指全体、環指尺側半を受け持ちます(前腕内側の皮膚は内側前腕皮神経が支配し、尺骨神経は前腕に皮枝を出しません)。本例の症状は肘部管での尺骨神経障害によるもので、正中神経領域である示指・中指末節の感覚異常は説明できません。感覚異常の出る場所で神経を絞り込むのが鑑別の近道です。
ポイント
  • 外反肘+肘部管部の刺激症状(肘内側から前腕尺側のしびれ)+握力低下=遅発性尺骨神経麻痺。背景に小児期の上腕骨外顆骨折(偽関節・変形治癒)を疑う。
  • 尺骨神経の皮膚支配は手部のみ。掌側枝・背側枝が手掌・手背の尺側、小指全体、環指尺側半を受け持ち、前腕には皮枝を出さない(前腕内側の皮膚は内側前腕皮神経)。
  • 肘部管部で訴えるしびれは神経幹が刺激されて起こる自覚症状であり、皮膚支配領域そのものではない。両者を混同しない。
  • 肘を屈曲すると肘部管が狭くなり症状が強まる(肘屈曲テスト)。肘内側の叩打でTinel徴候が出ることもある。
  • 尺骨神経麻痺の運動所見は鷲手、フローマン徴候陽性、第1背側骨間筋と小指球の萎縮、指の内転・外転困難。
  • 母指球筋の萎縮(猿手)=正中神経、下垂手=橈骨神経。麻痺手の呼び名と神経をセットで覚える。
  • 筋萎縮が進行する例は手術(神経の除圧・移行)の判断が要る。医師へ紹介し、肘屈曲位の長時間保持と肘内側の圧迫を避けるよう指導する。
比較表
障害神経感覚が鈍る部位(皮膚支配)変形(麻痺手)代表的な徴候
尺骨神経手掌・手背の尺側、小指全体、環指尺側半(前腕には皮枝を出さない)鷲手フローマン徴候陽性、指の交叉不能、第1背側骨間筋の萎縮
正中神経手掌橈側・母指〜環指橈側半猿手母指球筋の萎縮、母指対立不能、涙のしずくサイン
橈骨神経手背橈側(母指・示指基部)下垂手手関節・手指の伸展不能、母指の伸展不能
内側前腕皮神経前腕内側(尺側)の皮膚単独障害はまれ。前腕尺側の感覚を担う点を尺骨神経と区別する
この問題の解説の修正を依頼する

解説に誤り・改善点があればお知らせください。件名と本文は自動入力済みです(編集できます)。お名前・メールアドレスは任意です。送信内容は玄康株式会社(黒澤一弘)に届きます。