学習トップ理由で解く 柔道整復師柔道整復理論 ▸ §24 臨床実地問題 / QJ25P104

理由で解く 柔道整復師

QJ25P104 柔道整復理論

出典:第25回柔道整復師国家試験(2017)午後 問104
問題
21歳の男性。1か月前から投球時右肩部に痛みが出現するため来所した。同部にわずかな熱感がみられ、肩関節自動運動に制限はみられないが、挙上時や外転外旋運動時に疼痛と引っかかり感が出現した。考えられるのはどれか。2つ選べ。
選択肢
1 SLAP 損傷
2 肩甲上神経麻痺
3 石灰沈着性肩関節周囲炎
4 肩峰下インピンジメント症候群
解答
正解1(SLAP 損傷)、4(肩峰下インピンジメント症候群)
解説

投球動作で1か月かけて出現した肩痛で、熱感はわずか、自動運動の制限はなく、挙上時と外転外旋時に「疼痛+引っかかり感」が出る——これは関節唇の損傷と、肩峰下でのはさみ込み(インピンジメント)を示す所見の組み合わせです。したがって1. SLAP損傷4. 肩峰下インピンジメント症候群の2つを考えます。

投球のコッキング後期から加速期にかけて、肩関節は最大外転・最大外旋位をとります。この肢位では上腕二頭筋長頭腱の起始部(上方関節唇)にねじれるような牽引力が加わり、上方関節唇が関節窩から剥がれていきます(いわゆる peel-back 機序)。剥がれた関節唇が骨頭と関節窩の間に挟まると、外転外旋のたびに「引っかかる」「コクッと鳴る」という訴えになります。これがSLAP損傷です。一方、腕を挙げていく過程では大結節が烏口肩峰アーチ(肩峰・烏口肩峰靱帯)に近づき、その間にある腱板と肩峰下滑液包が圧迫されます。ここに炎症が起これば挙上の途中(およそ60〜120度)で痛みが出る painful arc となり、これが肩峰下インピンジメント症候群です。投球障害肩では、関節内(関節唇)の問題と関節外(肩峰下)の問題は互いを悪化させる関係にあり、この2つが併存することはむしろ典型的です。本症例の「わずかな熱感」は滑膜・滑液包の軽度な炎症を反映したものです。なお「自動運動の可動域が保たれている」ことは、急性の激痛で発症し可動域が著しく制限される病態から距離を置く手がかりにはなりますが、それ単独で他疾患を切れる決定打ではありません。21歳男性・投球動作の反復という発症背景と、外転外旋時の機械的な引っかかり感という所見を軸に組み立てるのが確実です。

✓ 1. 正しい
SLAP 損傷
上方関節唇(superior labrum)が前方から後方にかけて損傷するもので、投球選手に多く見られます。決め手は「外転外旋位での疼痛」と「引っかかり感・クリック」で、本症例の訴えと一致します。自動運動の可動域そのものは保たれることが多く、その点も矛盾しません。徒手検査では O'Brien テスト(アクティブコンプレッションテスト)やクランクテスト、上腕二頭筋長頭腱を意識した Speed テストなどで疼痛やクリックを誘発します。対応としては、まず投球を一時中止し、外転外旋という誘発肢位を避けたうえで、肩甲胸郭機能や後方関節包の柔軟性(内旋制限=GIRD)を改善する運動療法を段階的に進めます。引っかかりが強い場合や改善が乏しい場合は、画像評価(関節造影MRIなど)のため医療機関への受診をすすめます。
✗ 2. 誤り
肩甲上神経麻痺
肩甲上神経は棘上筋と棘下筋を支配します。痛みの有無は絞扼される部位で異なり、肩甲切痕部での絞扼では肩後外側の深く鈍い痛みを伴うことが多く、棘窩切痕部(ガングリオンなど)での絞扼では痛みに乏しく棘下筋の萎縮だけが目立ちます。ただしいずれの場合も本質は外転初期の力の入りにくさ・外旋筋力の低下と、進行すれば棘上窩・棘下窩のくぼみ(筋萎縮)であって、本症例のような投球時の機械的な「引っかかり感」は説明できません。また他動可動域は保たれ、自動挙上も三角筋の代償で可能なことが多く、痛みの性状も「動作のある一点で引っかかる」というものではありません。鑑別のためには、肩甲棘の上下のくぼみを左右で見比べ、抵抗下の外旋筋力を必ず確認します。萎縮や明らかな筋力低下があれば、神経伝導検査・筋電図やMRIが必要になるため医療機関へつなぎます。
✗ 3. 誤り
石灰沈着性肩関節周囲炎
腱板(とくに棘上筋腱)にハイドロキシアパタイトが沈着し、それが吸収される時期に炎症を起こす病態で、40〜50歳代の女性に好発します。経過には急性型・亜急性型・慢性型があり、急性型では夜間に突然の激痛で発症し、強い熱感・腫脹を伴って自動運動も他動運動もほとんどできないほど可動域が制限されます。一方で慢性型では運動時痛が主体で、可動域はおおむね保たれることもあります。したがって「可動域が保たれている=本症は否定」と短絡してはいけません。本症例で本症を外す最大の根拠は、21歳男性・投球動作の反復という発症背景(本症は40〜50歳代女性に好発)と、外転外旋時の機械的な引っかかり感という所見です。わずかな熱感しかなく1か月かけて緩徐に出現した経過も、少なくとも急性型の像とは合いません。急性の激痛と著明な可動域制限を訴える患者に出会った場合は、単純エックス線で石灰陰影が確認できることが多いので、速やかに医療機関の受診をすすめる判断が適切です。
✓ 4. 正しい
肩峰下インピンジメント症候群
挙上に伴って大結節と烏口肩峰アーチの間で腱板・肩峰下滑液包がはさみ込まれ、炎症を起こしたものです。本症例の「挙上時の疼痛」「わずかな熱感」「引っかかり感」はこの病態でよく説明できます。可動域は自動運動では保たれていても、途中の一定の角度帯だけ痛む painful arc として現れるのが特徴です。徒手検査では Neer テスト(肩甲骨を固定して他動的に挙上)や Hawkins-Kennedy テスト(90度屈曲位からの内旋)で疼痛を誘発します。対応は、痛みの出る挙上動作を一時的に控えたうえで、肩甲骨の上方回旋を助ける前鋸筋・僧帽筋下部のトレーニングと、骨頭を関節窩に引き寄せる腱板(とくに棘下筋・肩甲下筋)の運動療法を組み立てることです。腱板断裂を疑う筋力低下があれば医療機関での画像評価につなぎます。
ポイント
  • 投球肩で「外転外旋時の痛み+引っかかり感(クリック)」=SLAP損傷を第一に考える。コッキング後期の peel-back 機序で上方関節唇が剥がれる。
  • 「挙上時の痛み(painful arc 60〜120度)」=肩峰下インピンジメント症候群。大結節と烏口肩峰アーチの間で腱板・肩峰下滑液包がはさまれる。
  • 投球障害肩では関節内(関節唇)と関節外(肩峰下)の障害が併存しやすいため、「2つ選べ」でこの組み合わせが成立する。
  • 石灰沈着性肩関節周囲炎を外す主根拠は「21歳男性・投球動作の反復」という発症背景(本症は40〜50歳代女性に好発)+機械的な引っかかり感。急性型は夜間の激痛と著明な可動域制限をきたすが、慢性型は運動時痛が主体で可動域が保たれることもあるため、「自動運動制限なし・熱感わずか」は年齢・性別・競技歴と合わせて使う補助所見と考える。
  • 肩甲上神経麻痺の本質は「外旋筋力低下+棘上窩・棘下窩の筋萎縮」。痛みは絞扼部位次第で、肩甲切痕部では肩後外側の鈍痛を伴い、棘窩切痕部では痛みに乏しい。いずれにせよ機械的な引っかかり感は生じず、他動可動域は保たれる。
  • 徒手検査の対応づけ:SLAP=O'Brien/クランク/Speed、インピンジメント=Neer/Hawkins-Kennedy。
比較表
疾患好発・背景発症様式主な症状可動域(自動・他動)誘発テスト
SLAP損傷(正答)若年の投球・オーバーヘッド動作者反復動作により徐々に外転外旋時痛、引っかかり感・クリックおおむね保たれるO'Brien、クランク、Speed
肩峰下インピンジメント症候群(正答)挙上動作の反復(年齢は幅広い)徐々に挙上時痛(painful arc 60〜120度)、軽度の熱感おおむね保たれる(痛む角度帯あり)Neer、Hawkins-Kennedy
肩甲上神経麻痺絞扼(肩甲切痕部、棘窩切痕部のガングリオン等)、牽引徐々に外旋筋力低下、棘上窩・棘下窩の筋萎縮。肩甲切痕部絞扼では肩後外側の鈍痛を伴うことが多く、棘窩切痕部絞扼では痛みに乏しい他動・自動とも保たれる(三角筋が代償)。制限ではなく外旋筋力の低下として現れる筋力テスト、筋電図・MRI(医科)
石灰沈着性肩関節周囲炎40〜50歳代の女性に多い急性型=夜間などに突然の激痛/亜急性・慢性型=緩徐急性型=強い熱感・腫脹、安静時痛・夜間痛/慢性型=運動時痛が主体急性型は著明に制限(他動も困難)/慢性型は保たれることもある単純エックス線で石灰陰影(医科)
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