学習トップ理由で解く 柔道整復師外科学概論 ▸ §20 臨床実地問題 / QJ25P054

理由で解く 柔道整復師

QJ25P054 外科学概論

出典:第25回柔道整復師国家試験(2017)午後 問54
問題
70歳の男性。40km/時で乗用車を運転中、前方からの軽自動車のはみ出し走行により正面衝突し、ハンドルで前胸部を強打した。救急搬入時、前胸部痛、頻脈、血圧低下を認めた。最も損傷の可能性が高い臓器はどれか。
選択肢
1 大動脈
2 肺静脈
3 横隔膜
4 肝臓
解答
正解1(大動脈)
解説

最も可能性が高いのは1の大動脈です。時速40kmで走行中に対向車と正面衝突しており、ハンドルで前胸部を強打して胸郭が急停止しているため、減速外傷として大血管の損傷を考えます。前胸部痛に頻脈と血圧低下を伴えば、まず出血性ショックを疑う場面です。

正面衝突が危険なのは、自車の速度に対向車の速度が加わった相対速度で衝突するためで、時速40kmの走行でも胸郭には大きな減速力が加わります。体が前方へ運ばれた瞬間にハンドルで胸郭が急停止すると、心臓や大動脈は慣性で前方へ動こうとします。このとき大動脈は動脈管索で固定されているため、可動性のある弓部と固定された下行大動脈の境目、すなわち左鎖骨下動脈分岐直後の大動脈峡部に強い剪断力が集中します。ここが裂けると大量出血となり、頻脈と血圧低下というショックの徴候が現れます。外膜でかろうじて保たれている場合は搬入時に一時的に血圧が保たれることもあるため、正面衝突やハンドル外傷のように減速力の大きい受傷機転であれば、症状が軽く見えても油断せず評価します。実際の対応は、気道・呼吸・循環の安定化と輸液・輸血、胸部X線での縦隔拡大の確認、造影CTによる診断で、確定すれば緊急の血管内治療または開胸手術に進みます。

✓ 1. 正しい
大動脈
正面衝突とハンドル外傷による減速外傷で、胸郭が急停止する一方で大動脈は慣性で動こうとするため、動脈管索で固定された大動脈峡部に剪断力が集中して損傷しやすい部位です。前胸部痛・頻脈・血圧低下は大量出血によるショックの所見として矛盾せず、この状況で最も警戒すべき臓器といえます。
✗ 2. 誤り
肺静脈
肺静脈は肺門部で比較的短く固定されており、単独損傷はまれです。鈍的胸部外傷で問題になるのは肺挫傷・気胸・血胸といった肺実質や胸腔の病態が中心で、この症例で最初に想定する損傷ではありません。
✗ 3. 誤り
横隔膜
横隔膜損傷は腹部が急激に圧迫されて腹腔内圧が上昇したときや側方衝突で起こりやすく、肝臓に守られていない左側に多くみられます。前胸部をハンドルで強打したという機転からは、大血管損傷よりも優先度は下がります。
✗ 4. 誤り
肝臓
肝損傷は上腹部から右季肋部への直達外力やシートベルト外傷で問題になり、その場合は腹痛・腹膜刺激症状が前面に出ます。本症例は前胸部痛が主症状であり、まず胸腔内の大血管損傷を疑う場面です。
ポイント
  • 正面衝突・ハンドル外傷=減速外傷。胸郭が急停止する一方で大動脈は慣性で動くため、動脈管索で固定される大動脈峡部(左鎖骨下動脈分岐直後)が好発部位。
  • 正面衝突では自車と対向車の速度が加わった相対速度で衝突するため、自車速度が高くなくても減速力は大きくなる。
  • 前胸部痛+頻脈+血圧低下は出血性ショックのサイン。大血管損傷を第一に考える。
  • 胸部X線の縦隔拡大が手がかりとなり、造影CTで確定する。
  • 減速力の大きい受傷機転なら、来院時に血圧が保たれていても繰り返し評価する。
  • ハンドル外傷では心挫傷・心タンポナーデ、フレイルチェスト、肺挫傷も同時に念頭に置く。
比較表
臓器・病態典型的な受傷機転主な所見
大動脈(峡部)損傷正面衝突・高所転落などの減速外傷前胸部・背部痛、ショック、胸部X線での縦隔拡大
心挫傷・心タンポナーデハンドルによる前胸部直達外力不整脈、頸静脈怒張、心音減弱、血圧低下
肺挫傷・血気胸胸壁への直達外力、肋骨骨折低酸素血症、呼吸音減弱
横隔膜損傷腹部圧迫による腹腔内圧上昇、側方衝突左側に多い、胸腔内への腹部臓器脱出
肝損傷右季肋部〜上腹部への直達外力腹痛、腹膜刺激症状、腹腔内出血
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