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理由で解く 臨床医学総論

Q28H045 神経系の診察

出典:鍼灸 第28回(2020) 問題45
問題
脳血管障害により片側顔面と反対側半身の温痛覚障害をきたす部位はどれか。
選択肢
1 大 脳
2 小 脳
3 橋
4 延 髄
解答
正解4(延 髄)
解説

「片側の顔面」と「その反対側の半身」という食い違った温痛覚障害(交代性感覚障害)は、顔面の温痛覚を運ぶ三叉神経の経路と、体幹・四肢の温痛覚を運ぶ外側脊髄視床路とが、同じ高さの一側で同時に傷つくときに現れる。その両者が隣り合って走るのが延髄の外側であり、答えは 4 の延髄である。

体幹・四肢の温痛覚は、皮膚から脊髄後角に入ってそこでニューロンを乗り換え、すぐに反対側へ渡って外側脊髄視床路を上行する。つまり脳幹の高さでは、右を上行している温痛覚は「左半身」の情報である。一方、顔面の温痛覚は脊髄視床路ではなく三叉神経が運び、その中継核である三叉神経脊髄路核は延髄の外側に縦へ長く伸びていて、ここは交叉する前の情報なので「同じ側の顔面」を表している。そのため延髄外側の一点が障害されると、同側の顔面と対側の半身という左右の食い違った温痛覚障害が同時に生じる(延髄外側症候群=ワレンベルグ症候群)。これに対して視床や大脳(感覚野・内包)の高さでは、顔面の経路も半身の経路もすでに交叉を終えて一本にまとまっているので、感覚障害は顔面も半身も病巣と反対側にそろう。「顔と体でしびれる側が違う」と聞いたら脳幹、なかでも延髄外側を思い浮かべる、という結び付け方で覚えるとよい。

✗ 1. 誤り
大 脳
大脳(感覚野や、その深部を運動・感覚の線維が束になって通る内包)は、顔面の経路も体幹・四肢の経路もすでに交叉を終えた後の高さにある。したがって障害されると顔面も半身もそろって病巣と反対側の感覚が障害され、左右が食い違うことはない。運動症状としては対側の片麻痺(痙性麻痺)を伴い、優位半球の病変では失語を合併する(失語は右片麻痺に伴いやすい)。
✗ 2. 誤り
小 脳
小脳は温痛覚を大脳へ中継する経路ではなく、運動の協調や平衡をつかさどる。小脳の障害で前面に出るのは運動失調(振戦・平衡障害)であり、片側顔面と反対側半身という温痛覚の障害像は説明できない。延髄外側の障害で同側の小脳失調が「加わる」ことはあるが、それは小脳へ向かう線維が巻き込まれるためである。
✗ 3. 誤り
橋
三叉神経脊髄路核は橋の下部から頸髄上部まで縦に伸びるので、橋の下外側の病巣(前下小脳動脈の梗塞など)でも交代性の温痛覚障害が起こることはある。ただしその場合は、同側の顔面神経麻痺・難聴など橋に特有の症状が加わる。また、橋の代表的な交代性症候群は、同側の顔面神経麻痺・外転神経麻痺と対側の片麻痺という運動症状が前面に出るもの(ミヤール・ギュブレール症候群など)である。「片側顔面と反対側半身の温痛覚障害」を主徴とする代表的な病巣は延髄外側であり、本問の答えには当たらない。
✓ 4. 正しい
延 髄
延髄の外側には、同側の顔面の温痛覚を中継する三叉神経脊髄路核と、すでに交叉して対側半身の温痛覚を運んでいる外側脊髄視床路とが隣接して存在する。椎骨動脈や後下小脳動脈の血流障害でここが傷つくと、片側の顔面と反対側の半身に温痛覚障害が同時に現れる(延髄外側症候群=ワレンベルグ症候群)。同側のホルネル症候群、同側の小脳失調、嗄声・嚥下障害、めまい・眼振を伴うことが多い。
ポイント
  • 体幹・四肢の温痛覚は脊髄後角で乗り換えてすぐ交叉し、対側の外側脊髄視床路を上行する。だから脊髄の交叉部より上(脳幹・視床・大脳)の病巣では、半身の温痛覚障害は病巣と反対側に出る。
  • 顔面の温痛覚は脊髄視床路ではなく三叉神経が担い、その中継核である三叉神経脊髄路核は延髄外側にあって交叉前=同側の情報を扱う。
  • この2つが隣り合う延髄外側が傷つくと、同側顔面+対側半身という左右の食い違った温痛覚障害(交代性感覚障害)になる=延髄外側症候群(ワレンベルグ症候群)。
  • 延髄外側症候群は椎骨動脈・後下小脳動脈の血流障害で起こり、同側のホルネル症候群・同側の小脳失調・嗄声・嚥下障害・めまい・眼振を伴いやすい。
  • 視床や大脳(感覚野・内包)の病巣では顔面も半身も病巣の反対側にそろい、小脳の病巣では感覚障害ではなく運動失調が主体となる。
  • 重要用語: 外側脊髄視床路, 三叉神経脊髄路核, 延髄外側症候群(ワレンベルグ症候群) を正確に理解しておくこと。
比較表
障害部位温痛覚障害の出方合わせて出やすい症状
大脳(感覚野・内包=大脳の深部で運動・感覚の線維が束になって通る場所)顔面も半身も病巣と反対側にそろう対側の片麻痺(痙性麻痺)、優位半球の病変では失語(右片麻痺に伴いやすい)
小脳温痛覚の伝導路ではなく、感覚障害は主症状にならない運動失調(振戦・平衡障害)
橋(下外側)起こりうるが典型ではない(前下小脳動脈の梗塞など)同側の顔面神経麻痺・外転神経麻痺+対側の片麻痺(運動症状が前面)
延髄(外側)同側の顔面+対側の半身(交代性感覚障害)同側のホルネル症候群、同側の小脳失調、嗄声・嚥下障害、めまい・眼振
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