学習トップ理由で解く 柔道整復師外科学概論 ▸ §9 麻酔 / QJ34P051

理由で解く 柔道整復師

QJ34P051 外科学概論

出典:第34回柔道整復師国家試験(2026)午後 問51
問題
麻酔で正しいのはどれか。2つ選べ。
選択肢
1 腰椎穿刺後の頭痛は体動で増悪する。
2 悪性高熱症ではアルカローシスを起こす。
3 胃液の誤嚥による肺炎をメンデルソン(Mendelson)症候群という。
4 誤嚥性肺炎はラリンジアルマスクで予防できる。
解答
正解1(腰椎穿刺後の頭痛は体動で増悪する。)、3(胃液の誤嚥による肺炎をメンデルソン(Mendelson)症候群という。)
解説

「2つ選べ」で、正しいのは1と3。硬膜(腰椎)穿刺後の頭痛が体位・体動で悪化することと、酸性の胃液を誤嚥して起こる化学性肺臓炎をメンデルソン症候群と呼ぶことが問われている。

麻酔の合併症は「どこで・何が起きているか」を1本の線でつなぐと迷わない。腰椎穿刺後の頭痛は、針の穴から髄液が漏れて髄液圧が下がり、脳が沈み込んで痛みを感じる硬膜・架橋静脈・神経が引っぱられるために起こる。引っぱる力は重力で決まるので、起き上がったり動いたりすると痛みが強まり、水平に寝ると軽くなる、という体位依存性が最大の特徴になる。一方、全身麻酔中の悪性高熱症は骨格筋のカルシウム制御が破綻して代謝が暴走する病態で、CO₂も乳酸も増えるためアルカローシスではなくアシドーシスに傾く。気道管理では、声門を「上から覆うだけ」の器具と、気管内をカフで「塞ぐ」器具とでは誤嚥に対する意味がまったく違う点が要になる。

✓ 1. 正しい
腰椎穿刺後の頭痛は体動で増悪する。
硬膜・くも膜にあいた穿刺孔から髄液が漏れ続けると髄液圧が低下し、脳が下方へ沈んで硬膜・架橋静脈・三叉神経や上位頸神経が牽引される。この牽引は重力に左右されるため、座位・立位や体動で頭痛が強まり、臥位で数十分安静にすると軽快するのが典型(硬膜穿刺後頭痛=低髄液圧性頭痛)。痛みは前頭部・後頭部を中心に両側性で、項部や肩へ放散することもあり、悪心・耳鳴・羞明(時に複視)を伴う。対応は臥床安静・十分な輸液・鎮痛薬で、遷延・高度な例では硬膜外自家血パッチ(ブラッドパッチ)を行う。予防としては細径のペンシルポイント針を選ぶ。
✓ 3. 正しい
胃液の誤嚥による肺炎をメンデルソン(Mendelson)症候群という。
産科麻酔中の胃内容誤嚥として Mendelson が報告した病態で、酸性の胃液(酸度が強く量が多いほど重症)が気管・肺胞に入って起こる化学性肺臓炎である。細菌が主役の誤嚥性肺炎とは成り立ちが異なり、胃酸そのものによる化学的傷害で肺胞上皮・毛細血管が壊れ、数時間以内に喘鳴・頻呼吸・低酸素血症と肺水腫様の陰影が出る。対応は気道確保と酸素化・換気の維持が中心で、必要なら人工呼吸を行い、二次感染が疑われた段階で抗菌薬を用いる。予防としては術前絶飲食を守り、リスク例では胃内容量と酸度を下げる薬剤を用いる。
✗ 2. 誤り
悪性高熱症ではアルカローシスを起こす。
向きが逆で、悪性高熱症ではアシドーシスになる。揮発性吸入麻酔薬やスキサメトニウムが引き金となり、筋小胞体からカルシウムが大量放出されて筋が持続収縮し、代謝が暴走する。CO₂産生が急増して呼気終末CO₂(EtCO₂)が上昇し(呼吸性アシドーシス)、同時に嫌気性代謝で乳酸が増えて代謝性アシドーシスも重なる混合性アシドーシスとなり、高体温・筋硬直・頻脈・高カリウム血症・ミオグロビン尿を伴う。EtCO₂の上昇は最も早く現れる手がかりなので、疑った時点で原因薬を直ちに中止し、100%酸素での過換気、ダントロレン投与、体表・輸液による冷却、高カリウム血症と不整脈の管理を進める。
✗ 4. 誤り
誤嚥性肺炎はラリンジアルマスクで予防できる。
ラリンジアルマスクは声門の上に置く声門上器具で、喉頭の周りをカフで覆うだけであり、気管と食道を分け隔てない。そのため逆流した胃内容が声門を越えて気管に入るのを確実には防げず、フルストマック(緊急手術、腸閉塞、胃内容停滞、妊婦など)では選択しないのが原則である。誤嚥のリスクが高い症例では、術前絶飲食を守ったうえで迅速導入を行い、カフ付き気管チューブで気管を塞いで気道を確保するのが基本になる。ラリンジアルマスクは、絶飲食が守られた待機手術の短時間麻酔や、挿管困難時に酸素化をつなぐ緊急気道確保の橋渡しとして使う器具と整理しておく。
ポイント
  • 硬膜穿刺後頭痛=体位で変わる頭痛。起き上がる・動くと悪化し、寝ると軽くなる。痛みは前頭部・後頭部を中心とした両側性。原因は髄液漏れによる低髄液圧で、遷延例には硬膜外自家血パッチ。
  • 悪性高熱症は「アシドーシス」。CO₂も乳酸も増えるので呼吸性+代謝性の混合性アシドーシス。アルカローシスと書いてあれば即×。
  • 悪性高熱症の初発サインはEtCO₂の急上昇。気づいたら原因薬中止 → 過換気 → ダントロレン → 冷却。
  • メンデルソン症候群=酸性胃液の誤嚥による化学性肺臓炎。細菌性の誤嚥性肺炎とは機序が別で、まず酸そのものが肺を傷つける。
  • 誤嚥を防ぐのはカフ付き気管チューブ。ラリンジアルマスクは声門を覆うだけで気管と食道を分離しないため、フルストマックでは使わない。
比較表
比較項目ラリンジアルマスク(声門上器具)カフ付き気管チューブ(気管挿管)
留置される位置喉頭の上(声門を外から覆う)気管内(声門を越えて留置)
気道と食道の分離分離しないカフで気管を塞ぎ分離する
誤嚥の予防確実には防げない防御性が高い
フルストマックでの使用原則として選ばない迅速導入とあわせて第一選択
主な使いどころ絶飲食が守られた待機手術の短時間麻酔、挿管困難時の緊急気道確保長時間手術、腹腔内・胸腔内手術、誤嚥リスクの高い症例
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