学習トップ / 理由で解く 柔道整復師 / 一般臨床医学 ▸ §21 臨床実地問題 / QJ32P044
理由で解く 柔道整復師
大腿骨頸部骨折の術後、離床という「動き出した瞬間」に、突然の胸痛・呼吸困難・SpO₂低下・頻脈・頻呼吸がそろっている。臥床中に下肢の深部静脈にできた血栓が飛んで肺動脈を詰めた、急性肺血栓塞栓症をまず考える場面である。
高齢・下肢の手術・術後の臥床という条件は、血栓ができる三条件(Virchowの三徴=血流のうっ滞、血管内皮の傷害、血液凝固能の亢進)をそのまま満たしてしまう。臥床中に下腿や骨盤の深部静脈にできた血栓は、離床によって下肢の筋ポンプが再び働いた瞬間に壁からはがれ、下大静脈から右心を経て肺動脈へ流れ込み、そこで詰まる。
低酸素血症が起こる仕組みは、「詰まった先でガス交換ができないから」という単純な話ではない。主な機序は、①閉塞を免れた領域へ血流が偏ることで生じる換気血流比(V/Q)の不均等(低V/Q領域の出現)、②サーファクタントの減少や無気肺、卵円孔開存などによる右左シャント、③心拍出量の低下に伴う混合静脈血酸素飽和度の低下、の三つである。一方、閉塞した先の肺胞は「換気はあるのに血流がない」死腔となるが、死腔の増加それ自体は低酸素血症の原因ではなく、CO₂の排出効率を落とす変化として現れる(呼気終末CO₂〈EtCO₂〉の低下、PaCO₂−EtCO₂較差の開大)。実際の急性期はむしろ過換気となるため、PaCO₂は低下することが多い。低酸素と過換気の刺激から頻呼吸となり、肺血管抵抗の上昇による右心負荷と心拍出量の低下から頻脈が生じる。梗塞が胸膜近くに及べば、呼吸に伴って強くなる胸痛が加わる。なおここでの低酸素はV/Q不均等が主体であるため酸素投与によく反応する。酸素投与は本症の初期対応の柱であり、ためらう理由はない。
ポイントは発症のタイミングである。術後の初回離床、長時間の座位のあとの起立、トイレでの排泄後など、「安静から動作へ移った直後」に突然発症するのがこの疾患の顔つきで、数日かけてじわじわ悪くなる病態とは時間経過がまったく違う。疑った時点で歩行・運動をただちに中止して安静を保ち、酸素投与ができる体制と救急搬送を手配する。予防は、術後早期離床、足関節の底背屈運動(足関節ポンプ運動)、弾性ストッキングや間欠的空気圧迫法、必要に応じた抗凝固療法である。柔道整復の現場でも、下肢の固定や長期安静のあとに運動を再開させる場面は同じ危険をはらむので、再開初日は特に呼吸状態と胸部症状に注意を向けたい。
| 疾患 | 発症の速さ | 特徴的な所見 | 典型的な状況 |
|---|---|---|---|
| 肺血栓塞栓症 | 突然(分単位) | 胸痛・呼吸困難・低酸素・頻脈・頻呼吸、下肢の腫脹 | 術後や長期臥床からの離床直後、排泄後 |
| 気管支喘息 | 比較的急だが反復性 | 呼気性喘鳴・呼気延長、既往とアレルゲン | 夜間・早朝、感染や刺激物の曝露後 |
| 心房細動 | 突然のことが多い | 動悸・絶対性不整脈、脈拍欠損。単独では低酸素になりにくい | 加齢、心疾患、甲状腺機能亢進症など |
| 肺炎 | 数日かけて進行 | 発熱・咳・膿性痰、局所の副雑音 | 術後臥床中の誤嚥・沈下性、免疫低下 |
| (参考)気胸 | 突然 | 片側の呼吸音減弱、患側の胸痛 | やせ型の若年男性、外傷、胸部手技後 |
解説に誤り・改善点があればお知らせください。件名と本文は自動入力済みです(編集できます)。お名前・メールアドレスは任意です。送信内容は玄康株式会社(黒澤一弘)に届きます。