学習トップ理由で解く 柔道整復師外科学概論 ▸ §19 腹部外傷(救急法) / QJ30P055

理由で解く 柔道整復師

QJ30P055 外科学概論

出典:第30回柔道整復師国家試験(2022)午後 問55
問題
腹部外傷で誤っているのはどれか。
選択肢
1 鈍的外傷の多くは交通事故が原因である。
2 脾損傷の治療に血管塞栓術がある。
3 肝損傷で腹腔内フリーエアーがみられる。
4 腹部外傷では多発外傷のことが多い。
解答
正解3(肝損傷で腹腔内フリーエアーがみられる。)
解説

腹腔内のフリーエアー(遊離ガス)は、空気を含む管腔臓器が破れたサインである。実質臓器である肝臓の損傷では原則としてみられない。

腹部臓器は、中身が詰まった実質臓器(肝・脾・腎・膵)と、空気や内容物を通す管腔臓器(胃・十二指腸・小腸・大腸)に分けて考えるとよい。実質臓器が損傷すると血管が豊富なため出血し、腹腔内に血液がたまる。これはFAST(迅速簡易超音波検査)でモリソン窩・脾周囲・ダグラス窩の液体貯留として捉えられ、造影CTで血管外漏出(extravasation)を確認する。一方、管腔臓器が穿孔すると内腔の空気が腹腔へ漏れるので、立位胸部X線で横隔膜下の遊離ガス、CTで腹腔内free airとして描出される。つまり「液体貯留を見たら実質臓器の出血、フリーエアーを見たら管腔臓器の穿孔」と対応づけて読むのが基本である。

✓ 3. これが誤り(正解)
肝損傷で腹腔内フリーエアーがみられる。
肝臓は実質臓器で内腔に空気を含まないため、損傷しても腹腔内に空気は漏れない。みられるのは出血に伴う腹腔内液体貯留である。フリーエアーは消化管など管腔臓器の穿孔を示す所見であり、この組合せが誤っている。
✗ 1. 正しい記述(答えではない)
鈍的外傷の多くは交通事故が原因である。
わが国の腹部外傷は銃創・刺創などの鋭的外傷が少なく、鈍的外傷が大半を占める。その原因として交通事故が最も多く、次いで転落・転倒などの高エネルギー外傷が挙げられる。
✗ 2. 正しい記述(答えではない)
脾損傷の治療に血管塞栓術がある。
循環動態が安定していれば非手術的治療(NOM)が選ばれ、その中心が経カテーテル動脈塞栓術(TAE)である。脾臓は莢膜を持つ細菌に対する免疫の役割を担うため、可能なかぎり温存することが望ましい。
✗ 4. 正しい記述(答えではない)
腹部外傷では多発外傷のことが多い。
腹部に鈍的外力が及ぶような事故は高エネルギー外傷であることが多く、頭部・胸部・骨盤・四肢の損傷を同時に伴いやすい。全身を系統的に評価する姿勢が求められる。
ポイント
  • 腹腔内フリーエアー=管腔臓器(消化管)の穿孔。実質臓器損傷では出ない。
  • 実質臓器(肝・脾・腎・膵)損傷=出血。FASTで腹腔内液体貯留、造影CTで血管外漏出を確認する。
  • 脾損傷は循環動態が安定していればTAEを含む非手術的治療で温存を図る(脾の免疫機能を守る)。
  • 日本の腹部外傷は鈍的が大半で、原因の最多は交通事故。高エネルギー外傷ゆえ多発外傷を伴いやすい。
  • 腹部打撲の傷病者では、その場の所見が軽くても全身観察と経過観察を怠らず、異常があれば速やかに医療機関へつなぐ。
比較表
実質臓器損傷(肝・脾・腎・膵)管腔臓器損傷(胃・腸)
主病態出血穿孔による内容物の漏出
画像所見腹腔内液体貯留(FAST陽性)、造影CTで血管外漏出腹腔内フリーエアー(横隔膜下の遊離ガス)
臨床像出血性ショック(頻脈・低血圧・冷汗)汎発性腹膜炎(板状硬、反跳痛)
治療循環が安定ならTAEなど非手術的治療も可原則として緊急開腹手術
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