学習トップ理由で解く 柔道整復師リハビリテーション医学 ▸ §7 リハビリテーションの実際 / QJ30P021

理由で解く 柔道整復師

QJ30P021 リハビリテーション医学

出典:第30回柔道整復師国家試験(2022)午後 問21
問題
脳卒中片麻痺患者の急性期にみられないのはどれか。
選択肢
1 排尿障害
2 嚥下障害
3 沈下性肺炎
4 肩手症候群
解答
正解4(肩手症候群)
解説

肩手症候群は脳卒中発症後の亜急性期(おおむね発症1〜3か月)に成立する合併症で、急性期の病像には含まれない。排尿障害・嚥下障害・沈下性肺炎はいずれも発症直後から問題になる。

本問は時期による切り分けそのものが正誤の分かれ目なので、まず物差しを固定しておく。本解説では急性期=発症〜約2週、亜急性期=約2週〜3か月、慢性期=3か月以降とする。急性期の合併症は、「脳が損傷されたこと自体による機能障害」と「動けずに臥床していることによる二次的な障害」の2系統に分けて整理すると見通しがよい。前者の代表が排尿障害と嚥下障害で、いずれも発症直後から現れる。後者の代表が沈下性肺炎で、仰臥位が続くと重力で背側の肺が圧排されて換気が落ち、分泌物が排出されずに貯留することで起こる。これに対し肩手症候群は、麻痺側上肢を使わないこと、弛緩性麻痺による肩関節亜脱臼、不用意な牽引や外傷といった負荷が積み重なった結果として時間をかけて成立する複合性局所疼痛症候群(CRPS I型)であり、肩の疼痛と可動域制限に加え、手背の腫脹・発赤・熱感・発汗異常が出現し、放置すると手指の拘縮に進む。時期が後ろにずれるという点が本問の分かれ目である。なお痙縮・関節拘縮・廃用症候群も同じく「あとから効いてくる」問題で、いずれも亜急性期に出現し、慢性期にかけて固定化していく。とくに関節拘縮は不動による二次障害として急性期のうちから進行そのものは始まっているが、可動域制限として顕在化・固定化するのは亜急性期から慢性期であり、時期をまたいで連続的に進む現象として押さえておく。ただし「後から出るものだから急性期は関知しなくてよい」ということではなく、むしろ急性期からの良肢位保持、麻痺側肩の支持(アームスリング等)、愛護的な他動関節可動域運動、麻痺側上肢を引っ張らない介助手技こそが最良の予防になる。

✓ 4. これが答え(急性期にはみられない)
肩手症候群
肩手症候群はCRPS I型に相当する病態で、脳卒中発症からおおむね1〜3か月経った亜急性期に発症する。上肢の不使用・肩関節亜脱臼・繰り返す微小外傷といった要因が蓄積して成立するため、発症直後の急性期(発症〜約2週)には現れない。したがって本問の条件(急性期にみられないもの)に当てはまる。予防としては急性期からのポジショニングと肩の保護、愛護的な他動運動、麻痺側上肢を牽引しない移乗介助を徹底する。
✗ 1. 急性期にみられる(答えではない)
排尿障害
経過を2段階に分けて理解する。まず発症直後の急性期は、いわゆる脳ショックによって排尿筋が無収縮となるため、尿を出せずに膀胱内へ溜め込む尿閉となり、あふれ出る形の溢流性尿失禁を来しやすい。その後、大脳(前頭葉の排尿抑制中枢)から橋排尿中枢への抑制が失われた状態が前面に出てくると、今度は排尿筋過活動(無抑制膀胱)となり、頻尿・尿意切迫・切迫性尿失禁へ移行する。つまり「抑制が外れる=出なくなる」のではなく「抑制が外れる=勝手に出る」であり、急性期の尿閉は抑制解除ではなく脳ショック期の排尿筋無収縮によるものである点を取り違えない。いずれの段階も発症後早期から高頻度にみられる機能障害であり、残尿測定と排尿誘導、必要に応じた導尿管理を行う。よって除外肢にはならない。
✗ 2. 急性期にみられる(答えではない)
嚥下障害
本問の対象である脳卒中片麻痺、すなわち一側性の大脳半球病変であっても、急性期にはおおむね30〜50%と高い頻度で嚥下障害がみられる。口腔期の食塊形成・送り込みと、咽頭期の嚥下反射惹起のタイミングとの協調が乱れるためである。嚥下運動は両側の大脳半球から支配されているため、多くは健側による代償が働いて経過とともに改善するが、急性期には確実に問題となる。これに対し、両側の皮質延髄路が障害される仮性球麻痺や、延髄病変による球麻痺では、高度かつ遷延しやすい重症型となる。いずれも誤嚥性肺炎に直結するため、経口摂取を始める前に反復唾液嚥下テストや水飲みテストなどのスクリーニングを行い、食形態と姿勢を調整したうえで口腔ケアを併用する。急性期の代表的合併症であり、除外肢にはならない。
✗ 3. 急性期にみられる(答えではない)
沈下性肺炎
意識障害や麻痺で臥床が続くと、重力によって背側の肺が圧排されて換気が低下し、分泌物が貯留して感染を起こす。臥床という状況そのものが原因なので、まさに急性期に生じる二次障害である。体位変換、早期離床、排痰援助、口腔ケアで予防する。よって除外肢にはならない。
ポイント
  • まず時期の物差しを固定する。急性期=発症〜約2週/亜急性期=約2週〜3か月/慢性期=3か月以降。本問はこの区分が正誤の分かれ目。
  • 急性期の合併症は2系統で整理する。脳損傷そのものによるもの(意識障害・嚥下障害・排尿障害)と、臥床による二次障害(沈下性肺炎・深部静脈血栓症・褥瘡)。
  • 脳卒中後の排尿障害は2段階。急性期は脳ショックによる排尿筋無収縮で尿閉・溢流性尿失禁、その後は大脳の抑制が外れて排尿筋過活動(無抑制膀胱)となり頻尿・尿意切迫・切迫性尿失禁。「抑制解除=尿閉」と取り違えない。
  • 嚥下障害は一側性の大脳半球病変(=片麻痺)でも急性期に高頻度(およそ30〜50%)にみられ、口腔期・咽頭期の協調障害による。両側支配ゆえ多くは代償されて改善する。両側皮質延髄路障害による仮性球麻痺・延髄病変による球麻痺は高度・遷延しやすい重症型。
  • 亜急性期(約2週〜3か月)に問題化する代表が肩手症候群(とくに発症1〜3か月)。痙縮・関節拘縮・廃用症候群も亜急性期から出現し、慢性期(3か月以降)にかけて固定化する。時期でグループ分けすると出題に強い。
  • 関節拘縮は不動による二次障害として急性期から進行そのものは始まるが、可動域制限として顕在化・固定化するのは亜急性期〜慢性期。時期をまたぐ連続的な現象として押さえる。
  • 肩手症候群=CRPS I型。肩の疼痛・可動域制限に、手背の腫脹・発赤・熱感・発汗異常を伴い、進行すると手指拘縮を残す。
  • 予防が最も有効な介入。急性期から良肢位保持と体位変換、麻痺側肩の支持、愛護的な他動ROM運動を行い、麻痺側上肢を引っ張って介助しない。
  • 肩関節亜脱臼は弛緩性麻痺期(=急性期から)の棘上筋・三角筋の支持性低下で生じ、肩手症候群の温床になる。触知と肩峰下の陥凹を確認して早期に対応する。
比較表
時期主な合併症成り立ち対応の要点
急性期(発症〜約2週)意識障害、嚥下障害、排尿障害(脳ショック期の尿閉・溢流性尿失禁)脳損傷による機能障害が直接現れる/排尿は脳ショックで排尿筋が無収縮になる嚥下スクリーニング、残尿測定・導尿、全身状態の安定化
急性期(同上・臥床由来)沈下性肺炎、深部静脈血栓症、褥瘡、肩関節亜脱臼安静臥床・不動と弛緩性麻痺による二次障害体位変換、早期離床、排痰援助、口腔ケア、肩の支持
急性期を過ぎる頃から排尿筋過活動(無抑制膀胱)による頻尿・尿意切迫・切迫性尿失禁大脳による排尿抑制が失われ、橋排尿中枢が脱抑制される時間排尿・排尿誘導、残尿確認、必要に応じ薬物療法
亜急性期(約2週〜3か月)肩手症候群(CRPS I型。とくに発症1〜3か月)、肩関節亜脱臼の疼痛化上肢の不使用・亜脱臼・微小外傷の蓄積良肢位保持、肩の支持、愛護的な他動ROM、牽引を避ける介助
亜急性期〜慢性期(3か月以降に固定化)痙縮、関節拘縮、廃用症候群亜急性期から出現し、運動麻痺の残存と活動量低下により慢性期に固定化する装具・持続的ストレッチ、痙縮治療、生活動作の再構築
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