学習トップ理由で解く 柔道整復師柔道整復理論 ▸ §24 臨床実地問題 / QJ29P117

理由で解く 柔道整復師

QJ29P117 柔道整復理論

出典:第29回柔道整復師国家試験(2021)午後 問117
問題
16歳の男子。高校の野球部でピッチャーをしている。2週前から練習後に肩周囲のだるさを自覚するようになったが、そのまま練習を続けていた。1週前から日常生活で頭を洗う動作など、上肢を挙上位に保つとしびれがひどくなるため来所した。肩の屈曲・外転制限や大結節部の圧痛はない。陽性になる検査法はどれか。
選択肢
1 ドロップアームテスト
2 モーリーテスト
3 スピードテスト
4 トムゼンテスト
解答
正解2(モーリーテスト)
解説

投球を繰り返す高校生で、上肢を挙上位に保つとしびれが強まるのが主症状です。腱板ではなく神経・血管束の圧迫、すなわち胸郭出口症候群を示す所見であり、陽性になるのはモーリーテストです。

胸郭出口には狭い通路が3か所あります。前斜角筋・中斜角筋・第1肋骨で囲まれる斜角筋三角、鎖骨と第1肋骨のあいだの肋鎖間隙、烏口突起の下で小胸筋腱に覆われる小胸筋下間隙です。ここを腕神経叢と鎖骨下動静脈が通ります。大切なのは、どの間隙が狭くなるかは肢位で決まるという点です。上肢を挙上(過外転)位に保つと、神経血管束は烏口突起の下で小胸筋腱に押し当てられ、同時に引き伸ばされて圧迫が強まります。これが過外転症候群で、再現するのがライトテストです。洗髪・つり革・投球のトップ肢位といった「腕を上げ続ける動作」でしびれが出るのは、この小胸筋下間隙での絞扼によります。一方、肋鎖間隙が狭くなるのは肩甲帯を下制し後方へ引いた肢位で、胸を張らせて肩を後下方に引くエデンテストがこれにあたります(肋鎖症候群)。斜角筋三角での絞扼は、頸部を伸展・患側へ回旋させるアドソンテストで評価します。投球選手では斜角筋の緊張・肥厚や、なで肩・肩甲帯下制の姿勢が誘因になります。本症例で肩の屈曲・外転制限がなく大結節部の圧痛もないことは、腱板疾患や肩峰下滑液包炎を打ち消す重要な陰性所見です。対応としては、まず挙上位を長く保つ動作と投球量を減らし、斜角筋・小胸筋のストレッチと僧帽筋上部・肩甲挙筋など肩甲帯を引き上げる筋の強化、なで肩姿勢の修正を指導します。しびれが持続する、握力低下や手内在筋の萎縮が出る、上肢の色調変化があるといった場合は医療機関での精査につなぎます。

✓ 2. 正しい
モーリーテスト
鎖骨上窩から斜角筋間隙を母指で圧迫し、上肢へ放散する痛みやしびれが再現されれば陽性とする検査です。腕神経叢が斜角筋三角で刺激されていることを直接確かめる方法で、胸郭出口症候群を疑う本症例で陽性になりうるのは選択肢のなかでこれだけです。
✗ 1. 誤り
ドロップアームテスト
他動的に外転させた上肢をゆっくり下ろさせ、保持できず落ちてしまえば陽性で、棘上筋を中心とした腱板断裂をみる検査です。本症例は肩の屈曲・外転制限がなく大結節部の圧痛もないため腱板断裂は考えにくく、しびれという神経症状も腱板断裂では説明できません。
✗ 3. 誤り
スピードテスト
肘伸展・前腕回外位で肩を屈曲させ、これに抵抗を加えて結節間溝部に痛みが出れば陽性となる、上腕二頭筋長頭腱炎の検査です。この場合の訴えは肩前面の限局した痛みであって、挙上位保持で強まるしびれではありません。
✗ 4. 誤り
トムゼンテスト
手関節を背屈させたところに抵抗を加え、上腕骨外側上顆に痛みが出れば陽性となる、上腕骨外側上顆炎(いわゆるテニス肘)の検査です。評価している部位が肘であり、肩から上肢に及ぶしびれの検査ではありません。
ポイント
  • 上肢を挙上(過外転)位に保つとしびれが増悪 → まず胸郭出口症候群を疑う。挙上位では小胸筋下間隙(烏口突起下)で神経血管束が圧迫・牽引されるため。
  • 肢位と間隙の対応で覚える。アドソン(頸部伸展・患側回旋)=斜角筋三角/エデン(肩甲帯を下制・後方へ引く)=肋鎖間隙/ライト(過外転)=小胸筋下間隙。ルースは3分間挙上運動負荷。
  • モーリーテストは鎖骨上窩(斜角筋間隙)を圧迫して放散痛・しびれを再現させる検査。
  • 肩の屈曲・外転制限がない/大結節部の圧痛がないは、腱板疾患を打ち消す陰性所見として読む。
  • 検査名は「どこの何をみるか」で対にして記憶する(スピード=上腕二頭筋長頭腱、トムゼン=上腕骨外側上顆)。
比較表
検査法対象部位・疾患方法と陽性所見
モーリーテスト胸郭出口症候群(斜角筋間隙の腕神経叢)鎖骨上窩を母指で圧迫 → 上肢への放散痛・しびれ
ドロップアームテスト腱板断裂(主に棘上筋)他動外転位から下ろさせる → 保持できず落下
スピードテスト上腕二頭筋長頭腱炎肘伸展・前腕回外位で肩屈曲に抵抗 → 結節間溝部痛
トムゼンテスト上腕骨外側上顆炎手関節背屈に抵抗 → 上腕骨外側上顆部痛
絞扼部位(間隙)狭くなる肢位対応する誘発テスト
斜角筋三角(前斜角筋・中斜角筋・第1肋骨)頸部を伸展し患側へ回旋、深呼吸アドソンテスト(モーリーテストで圧痛・放散痛を確認)
肋鎖間隙(鎖骨と第1肋骨のあいだ)肩甲帯を下制・後方へ引く(胸を張る、重量物の保持)エデンテスト(肋鎖症候群)
小胸筋下間隙(烏口突起下)上肢を挙上(過外転)するライトテスト(過外転症候群)
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