学習トップ理由で解く 柔道整復師柔道整復理論 ▸ §24 臨床実地問題 / QJ28P110

理由で解く 柔道整復師

QJ28P110 柔道整復理論

出典:第28回柔道整復師国家試験(2020)午後 問110
問題
13歳の男子。転倒した際に肘関節伸展位で左手を地面に衝いて受傷した。肘関節内側に著明な腫脹と皮下出血斑を認める。同部に限局性圧痛を認め、肘関節の屈伸運動障害もみられる。受傷時の単純エックス線写真(別冊 No. 2) を示す。続発症で最も考えられるのはどれか。
図
選択肢
1 前腕回外制限
2 肘関節屈曲障害
3 外反肘変形
4 尺骨神経麻痺
解答
正解4(尺骨神経麻痺)
解説

13歳が肘伸展位で手をつき、肘関節内側に限局した腫脹・皮下出血斑・圧痛。上腕骨内側上顆骨折であり、内側上顆のすぐ後ろを尺骨神経が走るため、続発症の筆頭は尺骨神経麻痺である。

内側上顆は前腕屈筋・回内筋群の共同起始部で、成長期にはまだ骨端核として本体との結合が弱い。肘伸展位で手をつくと肘に外反力が加わり、同時に屈筋・回内筋群が引き伸ばされて強く牽引するため、内側上顆が裂離する。この骨折が神経障害と直結するのは解剖の位置関係による。内側上顆の後面には尺骨神経溝という浅い溝があり、尺骨神経は骨に直接接してここを通り、そのまま前腕へ入る。したがって骨片の転位、血腫、腫脹による圧迫、まれに骨片の関節内嵌入によって、受傷直後から神経が障害されうる。尺骨神経麻痺が起これば小指と環指尺側の知覚障害、骨間筋・母指内転筋の筋力低下が現れる。母指内転筋の麻痺は、紙を母指と示指で挟ませて術者が引き抜こうとすると確かめられる。内転筋が働かないぶんを長母指屈筋が代償するため、母指のIP関節が屈曲して紙を押さえにいく——これがフローマン(Froment)徴候陽性である。観察点は「つまめない」ことではなく「母指IP関節が曲がる」ことにあり、ここを押さえておかないと実際の陽性所見を見落とす。さらに進行すれば骨間筋の萎縮によって鷲手変形となる。初診時に手指の知覚と巧緻運動を確認して記録に残し、固定後も経過ごとに再確認する。転位が大きい例や神経症状がある例は手術適応となるので、速やかに医師の診察へつなぐ。

✓ 4. 最も考えられる
尺骨神経麻痺
内側上顆の直後を尺骨神経が骨に接して走行するため、裂離した骨片や血腫に直接圧迫されやすい。内側上顆骨折で最も警戒すべき続発症であり、小指・環指尺側のしびれ、手内在筋の筋力低下(フローマン徴候では母指内転筋の麻痺を長母指屈筋が代償し、母指IP関節が屈曲する)を繰り返し確認する必要がある。
✗ 1. 考えにくい
前腕回外制限
前腕の回旋制限が主問題になるのは、橈骨頭の骨折・脱臼、前腕両骨骨折、骨間膜や上下橈尺関節の損傷といった、回旋機構そのものが壊れた場合である。内側上顆は前腕の回旋軸に関与しないため、代表的な続発症には挙がらない。
✗ 2. 考えにくい
肘関節屈曲障害
固定期間が長引けば可動域制限は残りうるが、内側上顆骨折で問題になりやすいのは屈筋群の拘縮による伸展制限のほうで、屈曲そのものが強く障害されるとは限らない。しかも可動域制限は運動療法で改善が期待できる。「最も考えられる」続発症としては、神経損傷という不可逆になりうる問題に優先しない。
✗ 3. 考えにくい
外反肘変形
外反肘は上腕骨外顆骨折が偽関節・遷延癒合となった後に生じるのが典型で、そこから数年〜数十年後に遅発性尺骨神経麻痺(肘部管症候群)へつながる。内側上顆は関節面を構成しない骨突起であり、癒合位がずれても高度な内外反変形を残す部位ではない。
ポイント
  • 内側上顆=前腕屈筋・回内筋群の共同起始部。肘伸展位で手をつくと外反力+屈筋群の牽引で裂離する。成長期に多い。
  • 内側上顆の後面=尺骨神経溝。骨と神経が接しているため、尺骨神経麻痺が続発症の筆頭になる。
  • 尺骨神経麻痺の所見:小指・環指尺側の知覚障害、骨間筋と母指内転筋の筋力低下、進行すれば鷲手変形。
  • フローマン(Froment)徴候:紙を母指と示指で挟ませて引き抜くと、母指内転筋が働かないぶんを長母指屈筋が代償し、母指IP関節が屈曲する(陽性)。観察点は「つまめない」ことではなく「母指IP関節が曲がる」こと。
  • 骨片が肘関節内へ嵌入すると屈伸が急にロックされる。整復・固定前に必ず可動性と神経所見を確認する。
  • 肘周辺骨折の続発症は骨ごとに違う。顆上骨折→内反肘とフォルクマン拘縮、外顆骨折→偽関節・外反肘・遅発性尺骨神経麻痺、内側上顆骨折→(早期の)尺骨神経麻痺。
比較表
骨折受傷機転腫脹・圧痛の部位代表的な続発症
上腕骨内側上顆骨折肘伸展位で手をつき外反+屈筋群の牽引肘関節内側に限局尺骨神経麻痺、骨片の関節内嵌入
上腕骨外顆骨折手をついて内反力/外反力肘関節外側偽関節、外反肘、遅発性尺骨神経麻痺
上腕骨顆上骨折(伸展型)肘伸展位で手をつく肘全体(三角関係は保たれる)内反肘、フォルクマン拘縮、正中・橈骨神経麻痺
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