学習トップ理由で解く 柔道整復師外科学概論 ▸ §1 損傷 / QJ27P045

理由で解く 柔道整復師

QJ27P045 外科学概論

出典:第27回柔道整復師国家試験(2019)午後 問45
問題
Ⅲ度の広範囲熱傷の治療で適切でないのはどれか。
選択肢
1 十分な輸液
2 抗潰瘍薬の投与
3 抗菌薬の全身投与
4 血漿膠質浸透圧の補正
解答
正解3(抗菌薬の全身投与)
解説

Ⅲ度の広範囲熱傷の急性期治療は「輸液で循環を保つ・Curling潰瘍を防ぐ・膠質浸透圧を戻す」が柱で、これらはいずれも適切な対応です。抗菌薬の全身投与だけは感染予防を目的とした一律の使用が推奨されておらず、これが「適切でない」に当たります。

Ⅲ度熱傷では皮膚が全層にわたり壊死して焼痂(エスカー)となり、受傷直後から毛細血管透過性が高まって血漿成分が間質へ大量に漏れ出します。この体液喪失が熱傷ショックの正体で、受傷後48時間は輸液量が予後を左右します(Baxter〈Parkland〉法:受傷後24時間の必要量=乳酸リンゲル液 4 mL × 体重kg × 熱傷面積(%TBSA)。うち半量を受傷後8時間以内に、残り半量を次の16時間で投与する。起点は輸液開始時ではなく受傷時であることに注意)。同時に、広範囲熱傷は最大級の生体侵襲であるため胃・十二指腸にCurling潰瘍が生じやすく、酸分泌抑制薬で先回りします。一方、焼痂は血流が途絶えた組織なので全身に投与した抗菌薬は創面まで届きにくく、予防目的の全身投与は感染を減らさないまま耐性菌や真菌への菌交代を招きます。そのため感染対策は外用抗菌薬と早期の壊死組織除去・植皮が主役で、全身投与は感染が成立したときに起炎菌を狙って行うのが原則です。

✓ 3. これが答え(適切でない)
抗菌薬の全身投与
感染予防を目的とした抗菌薬の全身投与は、熱傷創感染の発生率を下げないうえに、MRSAや緑膿菌などの耐性菌の選択、カンジダなど真菌への菌交代を引き起こします。焼痂は血流が乏しく薬剤が到達しにくいことも理由の一つです。取るべき行動は、創面にはスルファジアジン銀などの外用抗菌薬を用い、創部培養・体温・白血球数・創の色調変化を追いながら管理し、感染が成立した時点で起炎菌に合わせた全身投与へ切り替えることです。加えて、デブリードマンと植皮で焼痂を早期に除くことが最も確実な感染対策になります。
✗ 1. 適切(答えではない)
十分な輸液
熱傷面積が広いほど血漿の漏出量が増え、循環血液量減少性ショック(熱傷ショック)に陥ります。急性期の最優先事項は輸液で、Baxter(Parkland)法などを目安に受傷時を起点として投与計画を立て、成人では尿量0.5〜1 mL/kg/時が保てるように投与量を調整します。適切な治療なので、この設問の答えにはなりません。
✗ 2. 適切(答えではない)
抗潰瘍薬の投与
広範囲熱傷という強い侵襲ストレスにより、胃酸分泌の亢進と粘膜血流の低下が重なって急性ストレス潰瘍(Curling潰瘍)が生じ、吐血や穿孔につながることがあります。プロトンポンプ阻害薬やH2受容体拮抗薬を予防的に投与し、可能であれば早期経腸栄養を併用して粘膜を守ります。適切な治療であり、答えにはなりません。
✗ 4. 適切(答えではない)
血漿膠質浸透圧の補正
血漿蛋白(主にアルブミン)が創部や間質へ逃げると低アルブミン血症となり、膠質浸透圧が下がって浮腫が悪化し、輸液しても血管内に水を保てなくなります。毛細血管透過性がある程度回復する受傷後およそ24時間以降に、アルブミン製剤で膠質浸透圧を補正します。なお、新鮮凍結血漿は凝固因子の補充を目的とする製剤であり、膠質浸透圧の維持や循環血漿量の補充を目的とした投与は適切ではありません。血漿膠質浸透圧の補正そのものは適切な治療で、答えにはなりません。
ポイント
  • Ⅲ度=全層熱傷。皮膚全層が壊死して白色〜褐色の焼痂となり、知覚神経も失われるため無痛。自然上皮化しないので、デブリードマンと植皮が必要。
  • 急性期48時間の主役は輸液。Baxter(Parkland)法=受傷後24時間の必要量は乳酸リンゲル液 4 mL × 体重kg × 熱傷面積(%TBSA)。うち半量を受傷後8時間以内に、残り半量を次の16時間で投与する(起点は輸液開始時ではなく受傷時)。効果判定は尿量(成人0.5〜1 mL/kg/時)。
  • 熱傷面積の見積もりは、成人が9の法則、小児が5の法則、狭い範囲や散在例は手掌法(患者本人の手掌=およそ体表面積1%)。
  • 抗菌薬は「予防は局所、治療は全身」。全身の予防投与は耐性菌の選択と真菌への菌交代を招くため行わず、感染成立後に培養結果に基づいて全身投与する。
  • ストレス潰瘍は原因で名前が変わる。熱傷=Curling潰瘍、頭蓋内圧亢進・中枢神経障害=Cushing潰瘍。熱傷では抗潰瘍薬を予防的に使う。
比較表
深度障害の深さ所見疼痛治癒経過
Ⅰ度(EB)表皮まで発赤・浮腫、水疱なしあり(ヒリヒリ)数日で治癒、瘢痕を残さない
浅達性Ⅱ度(SDB)真皮浅層水疱あり、底面は赤色(血流良好)強い1〜2週で上皮化、瘢痕を残さない
深達性Ⅱ度(DDB)真皮深層水疱あり、底面は白色(血流不良)鈍い(知覚鈍麻)3〜4週かかり、肥厚性瘢痕を残しやすい
Ⅲ度(DB)皮膚全層〜皮下白色〜褐色の壊死、羊皮紙様・炭化なし(無痛)自然治癒せず、デブリードマン+植皮が必要
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