学習トップ理由で解く 柔道整復師一般臨床医学 ▸ §21 臨床実地問題 / QJ27P043

理由で解く 柔道整復師

QJ27P043 一般臨床医学

出典:第27回柔道整復師国家試験(2019)午後 問43
問題
75歳の女性。道ばたで転倒しているのが発見された。症状を尋ねたところ、右手足が動きにくいと訴えたため救急車を要請した。誤っているのはどれか。
選択肢
1 頸髄損傷
2 橋左側の脳出血
3 右被殻部の脳出血
4 パーキンソン(Parkinson) 症候群
解答
正解3(右被殻部の脳出血)
解説

訴えは「右手足が動きにくい」。運動の指令が通る経路と、それがどこで左右に渡るかを思い出せば答えは決まる。右被殻の出血で障害されるのはの手足であり、この訴えの説明としては左右が合わない。

大脳の運動野から出た指令は皮質脊髄路(錐体路)を下り、延髄下端の錐体交叉で大部分が反対側へ渡って脊髄の前角に至る。したがって、交叉より(大脳・内包・被殻・中脳・橋・延髄上部)の病変は反対側の手足に麻痺を出し、交叉より(頸髄以下)の病変は同じ側に出る。この一本の線を頭に置けば、右手足の動かしにくさを錐体路の麻痺として説明できるのは〈左の大脳〜左の脳幹の病変〉か〈右側を巻き込む頸髄の病変〉に絞れる。
ただし注意したいのは、「動きにくい」という訴えが麻痺だけを指すとは限らない点である。無動・寡動や筋強剛、痛み、失調でも患者は同じ言い方をするので、錐体路以外の機序も候補として残しておく必要がある。
本問は「誤っているのはどれか」という否定形なので、選ぶべきは訴えを説明できない選択肢である。四つを順に当てはめると、錐体路の左右関係が明確に破綻するのは右被殻部の脳出血だけで、残る三つはいずれも——錐体路の麻痺として、あるいは麻痺以外の機序で——右手足の動かしにくさを説明しうる。
臨床的には、高齢者が路上で倒れているという状況では原因を一つに決めつけない姿勢が要る。脳血管障害で倒れたのか、転倒の衝撃で頸髄を痛めたのか、もともとの神経疾患のために転びやすかったのか——選択肢1・2・4はいずれもその可能性を並べたものである。現場では頸椎を動かさないよう頭頸部を保持したまま、意識・呼吸・麻痺の左右を確認して救急要請につなぐ。

✓ 3. これが答え(訴えと左右が合わない)
右被殻部の脳出血
被殻は内包のすぐ外側にあり、被殻出血は隣接する内包後脚を通る錐体路を巻き込んで反対側の片麻痺を起こす。つまり右被殻の出血なら麻痺はの手足に出るはずで、「右手足が動きにくい」という訴えとは左右が逆になる。よってこれが設問の求める「誤っている」選択肢である。なお高血圧性脳出血の好発部位は被殻が最も多く、次いで視床、以下皮質下・小脳・橋と続く。被殻出血では病巣側を向く共同偏視を伴うことも押さえておきたい。
✗ 1. 答えではない(矛盾しない)
頸髄損傷
頸髄は錐体交叉より下位なので、障害された側と同じ側の手足に麻痺が出る。右手足の動かしにくさは、右側を強く巻き込んだ頸髄損傷で説明がつく。高齢者はもともと頸椎症などで脊柱管が狭いことが多く、転倒による頸部の過伸展だけでも中心性頸髄損傷のような不全損傷を起こしうる。左右差のある不全麻痺として現れることもあるため、訴えと矛盾しない。転倒後にこの可能性を疑ったら、頭頸部を中間位で保持して動かさず、救急搬送を要請する。
✗ 2. 答えではない(矛盾しない)
橋左側の脳出血
橋は延髄の錐体交叉より上位にあるため、左側の病変は右側の手足に麻痺を出す。左右の対応は訴えと合致するので、この選択肢は設問の答えにならない。橋出血は一般に意識障害、両側の縮瞳、四肢麻痺、除脳硬直などを来す重症像で知られるが、出血が一側に偏れば片側優位の麻痺として発症しうる。
✗ 4. 答えではない(矛盾しない)
パーキンソン(Parkinson) 症候群
この選択肢は錐体路の左右関係ではなく、「動きにくい」=麻痺とは限らないという点で拾う。パーキンソン症候群では無動・寡動と筋強剛が左右差をもって始まることが多く、患者自身は「右手足が動かしにくい」と表現しうる。さらに姿勢反射障害と小刻み歩行・すくみ足のために転倒しやすく、路上で転倒しているという状況ともよく合う。錐体路障害による麻痺ではないが、訴えの説明としては十分に成り立つため答えにはならない。
ポイント
  • 錐体交叉は延髄下端。ここより上の病変=反対側の麻痺、ここより下(脊髄)の病変=同側の麻痺。この一線で麻痺の左右はすべて整理できる。
  • 右片麻痺の原因は「左の大脳・左の脳幹」か「右側の頸髄」。右被殻出血は左片麻痺なので、右片麻痺の説明にはならない。
  • ただし「動きにくい」=麻痺と即断しない。パーキンソン症候群の無動・筋強剛、疼痛、失調でも同じ訴えになる。左右の法則は麻痺として説明する場合の道具であり、麻痺以外の機序を先に切り捨てないこと。
  • 高血圧性脳出血の好発部位は被殻が最多、次いで視床。被殻出血は内包を巻き込んで反対側片麻痺を来し、病巣側への共同偏視を伴うことがある。
  • 高齢者の転倒後に四肢が動かしにくいときは頸髄損傷を必ず念頭に置く。頸椎症を背景に、過伸展だけでも中心性頸髄損傷などの不全損傷が起こる。頭頸部を動かさず保持し、救急要請する。
比較表
選択肢の病変症状の機序錐体交叉との位置関係症状が出る側「右手足が動きにくい」と合うか
右被殻部の脳出血錐体路(内包後脚)の障害交叉より上(大脳)(反対側)の片麻痺合わない → これが答え
橋左側の脳出血錐体路の障害交叉より上(脳幹)右(反対側)合う
頸髄損傷(右側優位の不全損傷)錐体路の障害交叉より下(脊髄)右(同側)合う
パーキンソン(Parkinson)症候群錐体路の麻痺ではない(無動・筋強剛)—(左右の法則の対象外)左右差をもった無動・筋強剛合いうる(麻痺以外の機序として)
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