学習トップ理由で解く 柔道整復師整形外科学 ▸ §14 疾患別各論 神経・筋疾患 / QJ25P063

理由で解く 柔道整復師

QJ25P063 整形外科学

出典:第25回柔道整復師国家試験(2017)午後 問63
問題
分娩麻痺で正しいのはどれか。
選択肢
1 腕神経叢損傷である。
2 下位型では waiter's tip position が定型的な肢位である。
3 自然回復することはない。
4 節後損傷では手術による神経修復は期待できない。
解答
正解1(腕神経叢損傷である。)
解説

分娩麻痺は、分娩時の牽引で新生児の腕神経叢(C5〜T1)が損傷されて生じる末梢神経麻痺である。C5・C6が傷つく上位型(Erb型)が最も多く、waiter's tip position をとり、多くは自然に回復する。

巨大児、肩甲難産、骨盤位分娩などで、頭頸部と肩を引き離す方向の力が加わると腕神経叢が過伸展される。C5・C6(±C7)が障害される上位型では、三角筋・棘上筋・棘下筋・上腕二頭筋・上腕筋・回外筋が麻痺し、肩は内転・内旋、肘は伸展、前腕は回内、手関節は軽度屈曲という肢位になる。ウェイターが背中の後ろでチップを受け取る手つきに似ているため waiter's tip position と呼ばれ、手指は動くのが特徴である。一方、C8・T1が障害される下位型(Klumpke型)では、手内在筋(骨間筋・虫様筋)に加えて手指屈筋・手関節屈筋も麻痺する。定型的な肢位である鷲手は手内在筋の麻痺によって生じるもので、MP関節が過伸展しPIP・DIP関節が屈曲した形をとる。ただし外在の手指屈筋まで完全に麻痺した場合は手指が弛緩位となり、典型的な鷲手が明瞭でないこともある。また、T1に伴走する交感神経が巻き込まれると Horner 症候群(縮瞳・眼瞼下垂・眼裂狭小)を合併する。損傷の程度は一過性の伝導障害から断裂、さらに神経根が脊髄から引き抜かれる節前損傷まで幅があり、大半の症例、とくに上位型は数週から数か月で自然に回復する。ただし分娩麻痺は骨折・脱臼・打撲・捻挫のいずれでもない末梢神経麻痺であり、柔道整復の施術対象ではない。疑った時点で小児科・整形外科へ速やかに紹介し、以後は医師の管理下で経過をみる。患肢を強く牽引しない取り扱いや、肩の内旋拘縮・肘の屈曲拘縮を防ぐ愛護的な関節可動域訓練の家族指導も医師の指示のもとで行う。回復の目安としては、生後3か月ごろまでに肘屈曲(上腕二頭筋の働き)が戻らない場合に専門医が神経修復手術の適応を判断するため、この時期を逃さないことが紹介を急ぐ理由となる。

✓ 1. 正しい
腕神経叢損傷である。
分娩麻痺は、分娩時に頭部と肩が引き離される牽引力によってC5〜T1で構成される腕神経叢が過伸展・断裂して起こる。すなわち分娩麻痺=新生児の腕神経叢麻痺であり、この記述が正解となる。巨大児、肩甲難産、骨盤位分娩、器械分娩などが危険因子である。
✗ 2. 誤り
下位型では waiter's tip position が定型的な肢位である。
waiter's tip position は上位型(Erb型、C5・C6)の肢位で、肩内転・内旋、肘伸展、前腕回内、手関節屈曲を示す。下位型(Klumpke型、C8・T1)は手内在筋(骨間筋・虫様筋)の麻痺による鷲手が定型で、Horner 症候群を伴うことがある。上位型と下位型が入れ替わっているため誤り。
✗ 3. 誤り
自然回復することはない。
分娩麻痺の多くは神経の伸展による一過性の伝導障害や軸索損傷であり、大半の症例は数週から数か月で自然に回復する。とくに上位型の予後は良好である。ただし全例が回復するわけではないので、医師の管理下で生後3か月ごろの肘屈曲の回復を一つの目安に評価を続け、回復が乏しければ神経修復手術を検討する流れになる。「回復することはない」と言い切る点が誤り。
✗ 4. 誤り
節後損傷では手術による神経修復は期待できない。
逆である。節後損傷は後根神経節より末梢での損傷で、中枢側にも末梢側にも神経の断端が残るため、神経縫合や神経移植によって修復が期待できる。修復が期待しにくいのは節前損傷(引き抜き損傷)で、神経根が脊髄から引き抜かれてつなぐ断端がなく、肋間神経や副神経などを用いた神経移行術が選択される。節前損傷は Horner 症候群や傍脊柱筋の脱神経所見、画像上の偽性髄膜瘤が手がかりとなる。
ポイント
  • 分娩麻痺=分娩時の牽引による腕神経叢(C5〜T1)損傷。巨大児・肩甲難産・骨盤位分娩が危険因子。
  • 上位型(Erb型、C5・C6)が最多で waiter's tip position(肩内転・内旋、肘伸展、前腕回内、手関節屈曲)。手指は動く。
  • 下位型(Klumpke型、C8・T1)は手内在筋(骨間筋・虫様筋)の麻痺による鷲手が定型。手指屈筋・手関節屈筋も麻痺するため、麻痺が完全であれば手指は弛緩位となり鷲手が明瞭でないこともある。T1の交感神経が巻き込まれると Horner 症候群(縮瞳・眼瞼下垂・眼裂狭小)を伴う。
  • 予後は良好で多くが自然回復する。生後3か月ごろまでに肘屈曲が戻らなければ手術適応を検討する。
  • 節前(引き抜き)損傷は修復困難で神経移行術、節後損傷は神経縫合・神経移植で修復が期待できる ―― 向きを取り違えない。
  • 分娩麻痺は骨折・脱臼・打撲・捻挫のいずれでもない末梢神経麻痺で柔道整復の施術対象外。疑った時点で小児科・整形外科へ速やかに紹介する。患肢を強く牽引しない取り扱いと、肩内旋・肘屈曲拘縮を防ぐ愛護的な可動域訓練は医師の指示のもとで行う。
比較表
上位型(Erb型)下位型(Klumpke型)全型
損傷高位C5・C6(±C7)C8・T1C5〜T1の全体
麻痺する主な筋三角筋・棘上筋・棘下筋・上腕二頭筋・上腕筋・回外筋手内在筋(骨間筋・虫様筋)・手指屈筋・手関節屈筋上肢の全筋
定型的な肢位waiter's tip position(肩内転・内旋、肘伸展、前腕回内、手関節屈曲)鷲手=手内在筋麻痺によって生じる肢位(MP関節過伸展、PIP・DIP関節屈曲)。※外在の手指屈筋まで完全に麻痺すると手指は弛緩位となり、典型的な鷲手が明瞭でないこともある上肢が弛緩し全体が動かない
随伴所見手指は動く。上腕二頭筋反射の消失Horner 症候群を伴うことがある広範な運動・知覚脱失
頻度・予後最も多く、予後良好まれで、予後は不良のことが多いまれで、予後不良
節前損傷(引き抜き損傷)節後損傷
損傷部位後根神経節より中枢(脊髄から根が引き抜かれる)後根神経節より末梢
神経修復つなぐ断端がなく縫合・移植は期待しにくい。肋間神経・副神経などからの神経移行術を検討神経縫合・神経移植で修復が期待できる
手がかり(新生児で評価できるもの)Horner 症候群、傍脊柱筋の脱神経、画像上の偽性髄膜瘤Horner 症候群を伴わない、傍脊柱筋の脱神経所見がない、画像上の偽性髄膜瘤がない、肘屈曲など自動運動の回復が経時的にみられる
予後不良比較的良好

※ Tinel 徴候の末梢への移動は節後損傷の回復を示す所見だが、叩打による放散痛・しびれを本人が申告して初めて評価できるため、新生児では評価できない。年長児・成人の外傷性腕神経叢損傷で用いる指標である。

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