学習トップ理由で解く 柔道整復師リハビリテーション医学 ▸ §5 リハビリテーションの治療 / QJ25P019

理由で解く 柔道整復師

QJ25P019 リハビリテーション医学

出典:第25回柔道整復師国家試験(2017)午後 問19
問題
脳梗塞を6か月前に発症し、現在、利き手の右手に重度の麻痺が残存している。食事動作訓練で正しいのはどれか。
選択肢
1 麻痺が回復するまで右手の機能訓練を行う。
2 右手で自助具を用いて食事動作訓練を行う。
3 左手で食事動作訓練を行う。
4 介助で食事するように家族指導を行う。
解答
正解3(左手で食事動作訓練を行う。)
解説

発症から 6 か月が経過し、利き手側に重度の麻痺が残っている状況である。機能回復を待つより、非麻痺側の左手で食べられるようにする(利き手交換)ほうが、確実に早く食事が自立する。

脳卒中の運動麻痺は発症後おおむね 3〜6 か月で回復が緩やかになり、この時期に重度麻痺が残った上肢が実用手になることは多くない。一方、食事は 1 日 3 回、毎日必要になる生活行為であり、回復を待っている間に低栄養や意欲の低下、介護負担の増大を招いてしまう。そこで生活期のリハビリテーションでは、麻痺側の管理(良肢位の保持、拘縮・肩の疼痛・浮腫の予防、随意性を伸ばす取り組み)を続けながら、ADL そのものは非麻痺側の左手を主体に組み立て直す。ここで整理しておきたいのが上肢の 3 分類である。麻痺側を主に使えるものが実用手、皿や器を押さえるなど非麻痺側の動作を助ける役割を担えるものが補助手、実用的な参加が難しいものが廃用手にあたる。本症例の重度麻痺は廃用手のレベルであり、皿を押さえる役割すら任せられない。したがって皿の固定は滑り止めマットや縁付き皿といった環境調整で代替し、左手での箸やスプーンの操作を練習する。左手で扱いやすい太柄のスプーンなど、非麻痺側用の道具を組み合わせると成功しやすい。「今の能力でどう自分で食べるか」を先に作り、その上で麻痺側の機能訓練を並走させるのが基本方針である。

✗ 1. 誤り
麻痺が回復するまで右手の機能訓練を行う。
右手の機能訓練を続けること自体は意味があるが、「回復するまで」と条件をつけると、その間ずっと食事が自立しない。発症 6 か月で重度麻痺が残る状況では大幅な回復は見込みにくいため、機能訓練と並行して、いま食べられる方法を用意する。
✗ 2. 誤り
右手で自助具を用いて食事動作訓練を行う。
自助具は、肩・肘の随意運動が一定量残っていることを前提に、把持や巧緻性の不足を補う道具である。本症例は上肢全体に重度の麻痺があり、仮に万能カフでスプーンを手掌部に固定できたとしても、それを口元まで運ぶ運動そのものが成立しない。したがって右手に自助具を用いる方針は成り立たない。軽度〜中等度の麻痺で「あと少しで届く」段階であれば、太柄スプーンや万能カフが有効な選択肢になる。
✓ 3. 正しい
左手で食事動作訓練を行う。
非麻痺側による利き手交換で、この時期に最も現実的かつ効果の高い方法。左手でのスプーン・箸操作を段階的に練習し、滑り止めマットや縁付き皿を併用すれば自分で食べる形に到達しやすい。皿の固定はこうした環境調整で代替し、麻痺側の右手は良肢位の保持と、拘縮・肩の疼痛・浮腫の予防を続ける。
✗ 4. 誤り
介助で食事するように家族指導を行う。
非麻痺側が使えるのに全介助にすると、本人の持っている能力が発揮されず、家族の負担も増える。家族への指導は、左手での自立を支える形(食事の準備、魚をほぐす、姿勢を整えるなど必要な部分だけを手伝う)に組み立てるとよい。
ポイント
  • 発症 6 か月は生活期。運動麻痺の回復は緩やかになり、重度麻痺の上肢は実用手になりにくい。
  • 上肢の 3 分類。実用手=麻痺側を主に使える手、補助手=皿や器を押さえるなど非麻痺側の動作を助けられる手、廃用手=実用的な参加が困難な手。本症例の重度麻痺は廃用手のレベル。
  • 利き手交換=非麻痺側で ADL を再構築すること。食事では左手でのスプーン・箸操作に、滑り止めマット、縁付き皿、左手で扱いやすい太柄スプーンなどの環境調整を組み合わせる。
  • 自助具は肩・肘の随意運動が残っていることを前提に、把持や巧緻性を補う道具。握力がなくても使える万能カフのような自助具もあるが、それも上肢を口元まで運べることが前提であり、重度麻痺の上肢には適さない。
  • 麻痺側は放置せず、良肢位の保持と拘縮・肩の疼痛・浮腫の予防を続ける。皿の固定は滑り止めマットや縁付き皿で代替する。
  • 家族指導の目標は全介助ではなく、自立を支える範囲の支援に絞ること。
比較表
麻痺側上肢の状態上肢の位置づけ食事動作の組み立て
軽度(実用手)麻痺側を主に使える手麻痺側でそのまま食べる。必要に応じて動作を練習
中等度(補助手)皿や器を押さえるなど、非麻痺側の動作を助ける役割を担える手非麻痺側を主体にし、麻痺側で皿を押さえる。必要に応じて太柄スプーン・万能カフなどの自助具を併用
重度(廃用手)実用的な参加は困難非麻痺側での利き手交換。皿の固定は滑り止めマットや縁付き皿で代替し、麻痺側は良肢位保持と拘縮・肩の疼痛・浮腫の予防を継続
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