学習トップ理由で解く 柔道整復師外科学概論 ▸ §19 腹部外傷(救急法) / QJ24P053

理由で解く 柔道整復師

QJ24P053 外科学概論

出典:第24回柔道整復師国家試験(2016)午後 問53
問題
腹部外傷で正しいのはどれか。
選択肢
1 鋭的外傷の多くは交通事故が原因である。
2 脾損傷の治療に血管塞栓術がある。
3 肝損傷で腹腔内フリーエアーがみられる。
4 腹部交通外傷では単発外傷のことが多い。
解答
正解2(脾損傷の治療に血管塞栓術がある。)
解説

腹部外傷は「鈍的か鋭的か」「実質臓器か管腔臓器か」の2軸で整理すると解けます。脾損傷では、循環動態が安定していれば血管塞栓術(TAE)で出血を止めて脾臓を温存する治療が確立しています。

日本では腹部外傷の多くが鈍的外傷で、交通事故・転落・打撲が代表的な原因です。鋭的外傷は刃物による刺創や銃創など、体表を貫く鋭い力によるものを指します。損傷臓器で見ると、肝・脾・腎などの実質臓器は血流が豊富なため損傷すると腹腔内出血をきたし、出血性ショックが主な問題になります。一方、胃や腸などの管腔臓器が穿孔すると、内容物とガスが腹腔内に漏れて腹膜炎と腹腔内遊離ガス(フリーエア)を生じます。つまりフリーエアは消化管穿孔のサインであり、実質臓器損傷の所見ではありません。初期対応では、腹腔内出血の有無をFAST(迅速簡易超音波検査)で素早く確認し、循環が不安定なら止血を優先します。脾臓は莢膜をもつ細菌に対する免疫を担うため、摘出後の重症感染症(脾摘後重症感染症)を避ける意味でも、可能な限り温存する方針がとられます。

✓ 2. 正しい
脾損傷の治療に血管塞栓術がある。
循環動態が安定している脾損傷では、経カテーテル的動脈塞栓術(TAE)で出血源をふさぎ、開腹手術を避けて脾臓を温存する非手術的治療が標準的な選択肢のひとつです。脾臓は免疫機能を担う臓器で、摘出すると肺炎球菌などによる重症感染症のリスクが上がるため、温存できる状況では積極的に温存します。ただし循環が不安定な場合は開腹止血を優先します。
✗ 1. 誤り
鋭的外傷の多くは交通事故が原因である。
交通事故は鈍的外傷の代表的な原因です。鋭的外傷は刃物による刺創や銃創など、鋭利な物体が体表を破って達するものを指します。受傷機転を聞き取るときは、まず鈍的か鋭的かを分けたうえで、鈍的なら外力の大きさから多発損傷を想定して全身を評価します。
✗ 3. 誤り
肝損傷で腹腔内フリーエアーがみられる。
腹腔内フリーエア(遊離ガス)は、消化管など管腔臓器の穿孔で内部のガスが腹腔内に漏れたときの所見です。肝臓は実質臓器なので、損傷しても主に起こるのは腹腔内出血であり、フリーエアは通常みられません。肝損傷を疑ったときは、腹腔内出血の評価としてFASTや造影CTを行い、循環動態の推移を追います。
✗ 4. 誤り
腹部交通外傷では単発外傷のことが多い。
交通外傷は大きなエネルギーが体幹全体に加わるため、頭部・胸部・骨盤・四肢を巻き込む多発外傷となることが多いのが実情です。腹部の所見が目立つ症例でも、そこだけに目を奪われず、意識・呼吸・循環を含めて頭から足まで系統的に観察し、見落としを防ぐ姿勢が大切です。
ポイント
  • 鈍的外傷=交通事故・転落・打撲(日本の腹部外傷の多数)。鋭的外傷=刺創・銃創。
  • 実質臓器(肝・脾・腎)の損傷 → 腹腔内出血・出血性ショック。管腔臓器(胃・腸)の穿孔 → 腹膜炎とフリーエア。
  • フリーエアは消化管穿孔のサイン。実質臓器損傷では通常みられない。
  • 脾損傷は循環が安定していればTAEなどで温存を図る(脾摘後重症感染症の回避)。不安定なら開腹止血が優先。
  • 交通外傷は多発外傷を前提に全身を系統的に評価する。腹腔内出血の初期評価にはFASTが有用。
比較表
観点実質臓器損傷(肝・脾・腎)管腔臓器損傷(胃・小腸・大腸)
主な病態腹腔内出血穿孔による腹膜炎
症状の出方比較的早く、ショック徴候が前面にやや遅れて腹痛・筋性防御・反跳痛が進行
画像の手がかり腹腔内の液体貯留(FAST陽性)、造影CTでの血管外漏出腹腔内遊離ガス(フリーエア)
治療の方向循環安定ならTAE・保存的治療、不安定なら開腹止血手術による穿孔部の処置と洗浄
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