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理由で解く 臨床医学各論

Q33A075 神経疾患

出典:あマ指 第33回(2025) 問題75
問題
次の症例について、「24歳の女性。事務職。最近パソコンでキーボード入力やマウスのクリック動作が多くなり、右手示指と中指の先がしびれるようになった。右手関節橈背側の腫脹や圧痛はない。」身体所見で正しいのはどれか。
選択肢
1 下垂手
2 小指外転筋力低下
3 ファレンテスト陽性
4 アイヒホッフテスト陽性
解答
正解3(ファレンテスト陽性)
解説

「右手示指と中指の先がしびれる」という訴えは、正中神経の支配領域(手掌橈側)の感覚障害を示す。手作業の反復で手根管内の正中神経が絞扼される手根管症候群を考え、その誘発テストであるファレンテストが陽性となる。

手根管は手関節掌側で手根骨と屈筋支帯に囲まれたトンネルで、指の屈筋腱とともに正中神経が通る。神経が走行の途中で骨・靱帯・筋などに囲まれた狭い部位を通るとき、そこで慢性的に圧迫・牽引されて起こる障害を絞扼性神経障害といい、手の使いすぎなどの反復動作が誘因になる。正中神経の手掌側の知覚領域は母指・示指・中指と環指橈側半で、手根管で絞扼されるとこの手掌橈側に痛みやしびれが生じる。本例の示指・中指の先のしびれはその領域の一部であり、進行すれば母指球筋が萎縮して母指と小指の対立が障害され、猿手とよばれる変形をとる。身体所見としては、ファレンテスト陽性のほか、手関節掌側の叩打で正中神経領域に放散する感覚が生じるチネル徴候、母指球の萎縮、つまみ動作(母指対立)の力の低下がひとそろいで問われる。本例で「右手関節橈背側の腫脹や圧痛はない」と断ってあるのは、同じく手の使いすぎで起こるドケルバン病(狭窄性腱鞘炎)を除外するための手がかりで、この一文があるだけで橈側のテストを答える選択肢は落とせる。しびれの場所から「どの神経か」を定め、次にその神経の誘発テストを選ぶ、という二段で処理すると確実である。

✗ 1. 誤り
下垂手
下垂手は手関節背屈ができなくなった状態で、橈骨神経麻痺に特徴的な変形である。橈骨神経の知覚領域は上腕後面から前腕背側・手背橈側にかけてで、示指・中指の指先のしびれをこの領域では説明できない。また手根管での正中神経の絞扼では、手関節背屈を担う筋は障害されないので下垂手は生じない。
✗ 2. 誤り
小指外転筋力低下
小指球の筋(小指外転筋・短小指屈筋・小指対立筋、および短掌筋)はすべて尺骨神経の支配である。したがって小指の外転筋力の低下は尺骨神経障害を示す所見である。尺骨神経障害では小指側のしびれや第4・第5指の鷲手、骨間筋の萎縮が問題になるので、示指・中指のしびれとは合わない。
✓ 3. 正しい
ファレンテスト陽性
ファレンテストは手根管症候群を確かめるための誘発テストである。手関節を掌屈位に保って手根管内の圧を高め、正中神経領域のしびれや痛みが強まれば陽性とする。示指・中指の先のしびれという訴えと一致し、本例でみられるべき所見である。
✗ 4. 誤り
アイヒホッフテスト陽性
アイヒホッフテストは母指を中に入れて握った手を尺屈させる検査で、手関節橈側に痛みが出れば陽性としてドケルバン病(狭窄性腱鞘炎)を示す。本例は手関節橈背側の腫脹も圧痛もないので、このテストが陽性になる状況ではない。
ポイント
  • 手根管症候群の知覚障害は手掌橈側、すなわち母指・示指・中指と環指橈側半に出る。本例の示指・中指の先のしびれはその一部で、手作業の反復による手根管での正中神経の絞扼を考える。
  • 手根管症候群の身体所見=ファレンテスト陽性・チネル徴候陽性・母指球の萎縮・母指と小指の対立(つまみ動作)の障害。局所の施術部位は手関節掌側で、鍼灸での局所治療穴は大陵。
  • アイヒホッフテスト(フィンケルスタインテストとほぼ同義に用いられる)陽性=ドケルバン病で、症状は手関節橈側(橈骨茎状突起部)に出る。
  • 下垂手=橈骨神経麻痺(手関節背屈の障害)、猿手=正中神経麻痺(母指対立の障害)、鷲手(第4・第5指)=尺骨神経麻痺。小指球の筋はすべて尺骨神経支配で、母指球は主として正中神経支配(短母指屈筋深頭と母指内転筋は尺骨神経)。
  • 生活指導は、誘因となる反復動作をいったん中止して休息をとること、装具による安静、作業姿勢の見直し。事務職という誘因にそのまま向き合う。
  • 重要用語: 手根管症候群, ファレンテスト, アイヒホッフテスト を正確に理解しておくこと。
比較表
所見・検査示す病態障害神経・罹患組織症状の出るところ
ファレンテスト陽性手根管症候群正中神経(手根管での絞扼)手掌橈側(母指・示指・中指と環指橈側半)の指先。進行すると母指球の萎縮
アイヒホッフテスト陽性ドケルバン病(狭窄性腱鞘炎)長母指外転筋・短母指伸筋の腱鞘手関節橈側(腫脹・圧痛)
下垂手橈骨神経麻痺橈骨神経手関節・手指の背屈(伸展)不能。知覚障害は手背橈側(母指と示指の間の背側)が中心
小指外転筋力低下尺骨神経障害尺骨神経(小指球筋・骨間筋)小指側・第4・第5指(鷲手)
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