学習トップ理由で解く 柔道整復師外科学概論 ▸ §9 麻酔 / QJ29P052

理由で解く 柔道整復師

QJ29P052 外科学概論

出典:第29回柔道整復師国家試験(2021)午後 問52
問題
全身麻酔前投薬の目的で誤っているのはどれか。
選択肢
1 不安除去
2 気道分泌抑制
3 胃内容誤嚥予防
4 深部静脈血栓予防
解答
正解4(深部静脈血栓予防)
解説

全身麻酔の前投薬は、麻酔導入と手術を安全・円滑にするために「麻酔をかける直前の患者の状態」を整える薬です。深部静脈血栓の予防は術中・術後を通じた別の対策であり、前投薬の目的には含まれません。

前投薬の目的は大きく分けて四つあります。第一に不安と緊張の除去で、ベンゾジアゼピン系薬(ミダゾラムなど)が用いられ、鎮静と健忘の効果で交感神経の緊張による血圧上昇や頻脈も抑えられます。第二に気道分泌の抑制と迷走神経反射(徐脈)の予防で、抗コリン薬(アトロピンなど)が用いられます。第三に胃内容誤嚥の予防で、H2受容体拮抗薬やプロトンポンプ阻害薬、制酸薬により胃液量を減らし pH を上げておくことで、万一誤嚥した場合の肺障害を軽くします。第四に鎮痛と麻酔薬必要量の減少です。いずれも「導入時から手術中にかけての危険と苦痛を減らす」という共通の狙いを持っています。一方、深部静脈血栓症は長時間の臥床と手術侵襲による血液凝固能の亢進、血流のうっ滞から生じるもので、その予防は早期離床、弾性ストッキング、間欠的空気圧迫法、リスクに応じた抗凝固薬という別系統の対策で行います。時間軸と狙いが違う、と整理すると混同しません。

✓ 4. これが答え
深部静脈血栓予防
深部静脈血栓症の予防は前投薬の目的ではありません。血栓は手術中から術後の臥床期間にかけて、下肢の血流うっ滞と凝固能亢進によって形成されるため、対策は術中から術後にかけて継続して行う必要があります。具体的にはリスク評価に基づいて弾性ストッキングや間欠的空気圧迫法を術中から用い、早期離床を促し、リスクが高ければ抗凝固薬を併用します。麻酔導入前に一度だけ薬を投与して済む性質のものではない、という点が決定的です。
✗ 1. 答えではない
不安除去
これは前投薬の代表的な目的です。手術を控えた患者の不安と緊張は、交感神経を興奮させて血圧上昇・頻脈を招き、麻酔導入を不安定にします。ベンゾジアゼピン系薬による鎮静と健忘作用で、患者の苦痛を減らすと同時に循環動態を安定させます。もちろん薬だけでなく、術前訪問での丁寧な説明そのものが不安の軽減に大きく寄与します。
✗ 2. 答えではない
気道分泌抑制
これも前投薬の古くからの目的です。気道内の分泌物が多いと、気管挿管の視野が悪くなり、また分泌物による気道閉塞や喉頭痙攣の誘因になります。抗コリン薬(アトロピンなど)は分泌を抑えると同時に、気管挿管や内臓の牽引で起こる迷走神経反射による徐脈も予防します。
✗ 3. 答えではない
胃内容誤嚥予防
これも前投薬の目的に含まれます。麻酔導入時は意識消失により咽頭・喉頭反射が消え、胃内容が逆流すると容易に気道へ流入します。酸性度の高い胃液を誤嚥すると重篤な化学性肺炎を起こすため、術前の絶飲食に加えて、H2受容体拮抗薬やプロトンポンプ阻害薬、制酸薬で胃液量を減らし pH を上げておきます。緊急手術など胃内容が残っている状況では、迅速導入などの手技的な工夫も併せて行います。
ポイント
  • 前投薬の目的は四つ——不安・緊張の除去、気道分泌抑制と迷走神経反射の予防、胃内容誤嚥の予防、鎮痛と麻酔薬必要量の減少。
  • 不安除去にはベンゾジアゼピン系薬。鎮静と健忘で循環動態も安定する。
  • 気道分泌抑制と徐脈予防には抗コリン薬(アトロピンなど)。
  • 誤嚥予防は H2受容体拮抗薬・プロトンポンプ阻害薬・制酸薬で胃液量減少と pH 上昇を図る。術前絶飲食も重要。
  • 深部静脈血栓の予防は早期離床・弾性ストッキング・間欠的空気圧迫法・抗凝固薬で、術中から術後にかけて行う別系統の対策。
比較表
目的手段実施の時間軸前投薬か
不安・緊張の除去ベンゾジアゼピン系薬麻酔導入前
気道分泌抑制・徐脈予防抗コリン薬(アトロピンなど)麻酔導入前
胃内容誤嚥の予防H2受容体拮抗薬、PPI、制酸薬、絶飲食麻酔導入前
深部静脈血栓の予防弾性ストッキング、間欠的空気圧迫法、早期離床、抗凝固薬術中〜術後を通じて×
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