学習トップ理由で解く 柔道整復師リハビリテーション医学 ▸ §9 臨床実地問題 / QJ25P021

理由で解く 柔道整復師

QJ25P021 リハビリテーション医学

出典:第25回柔道整復師国家試験(2017)午後 問21
問題
65歳の男性。2年前の高所からの転落で上部胸髄損傷で対麻痺がある。車いすでの日常生活は自立していたが、急に頭痛、顔面紅潮、発汗が出現した。注意するのはどれか。
選択肢
1 膀胱への多量の尿の貯留
2 股関節などの異所性骨化
3 肺炎の有無
4 両下肢の筋緊張の亢進
解答
正解1(膀胱への多量の尿の貯留)
解説

上部胸髄損傷(第 6 胸髄以上)の対麻痺者に、突然の頭痛・顔面紅潮・発汗が出現したときは自律神経過反射を疑う。誘因として最も頻度が高いのは膀胱の過伸展、すなわち尿の貯留やカテーテルの閉塞である。

第 6 胸髄より高位の損傷では、内臓や血管を支配する交感神経が上位中枢からの抑制を受けられなくなる。この状態で損傷レベル以下に強い刺激(膀胱の充満、便の貯留、褥瘡、きつい衣類や腹帯など)が加わると、脊髄反射として交感神経が過剰に発火し、下半身の血管が一斉に収縮して血圧が急上昇する。頸動脈洞と大動脈弓の圧受容器がこれを感知し、迷走神経を介して徐脈を起こす。同時に延髄の血管運動中枢は下行性の抑制で交感神経を抑えようとするが、その信号は損傷部より下へは届かない。そのため損傷レベルより上(顔面・頸部)だけが血管拡張し、レベル以下では血管収縮が続いて蒼白や立毛(鳥肌)がみられる。この上下の解離こそが、著しい血圧上昇と、顔面紅潮・発汗・鼻閉・拍動性頭痛が同時に現れる理由である。放置すると高血圧性の脳出血や痙攣に至りうる緊急事態なので、症状を見たらまず座位にして頭部を高くし下肢を下げる、締め付けている衣類・腹帯・ベルトをゆるめる、血圧を測りながら誘因を探す、という順で動く。誘因の確認は導尿やカテーテルの屈曲・閉塞の解除から始め、次に直腸の充満(摘便)を確認する。改善しなければ速やかに医師へつなぐ。柔道整復の現場では施術を中止し、この初期対応と医療機関への連絡を優先する。

✓ 1. 正しい
膀胱への多量の尿の貯留
自律神経過反射の誘因として最も頻度が高い。損傷レベル以下からの侵害刺激として膀胱の過伸展が交感神経を過剰に興奮させ、急激な血圧上昇と本症例の症状を引き起こす。導尿やカテーテル閉塞の解除で症状が引くことが多く、最初に確認すべき項目である。
✗ 2. 誤り
股関節などの異所性骨化
脊髄損傷の合併症ではあるが、症状は股関節周囲の熱感・腫脹・可動域制限として比較的緩やかに進む。突然の頭痛・顔面紅潮・発汗という急性の全身症状は説明できない。強い疼痛刺激として過反射の誘因になることはあるが、この場面でまず疑うものではない。
✗ 3. 誤り
肺炎の有無
上部胸髄損傷では肋間筋・腹筋の麻痺で咳嗽力が落ち、排痰困難から肺炎を起こしやすいのは事実。ただし現れるのは発熱・咳・膿性痰・呼吸困難であり、顔面紅潮を伴う拍動性頭痛が急に出るという今回の像とは異なる。
✗ 4. 誤り
両下肢の筋緊張の亢進
慢性期の痙縮としてよくみられる所見で、痙縮の増悪が過反射の誘因になることもある。しかし今回の頭痛・顔面紅潮・発汗を直接説明する原因としては弱く、最初に確認すべきは膀胱の充満である。
ポイント
  • 自律神経過反射は第 6 胸髄(T6)以上の脊髄損傷で起こる。損傷レベル以下の侵害刺激が引き金になる。
  • 機序は上下で分かれる。徐脈は圧受容器反射による迷走神経(副交感神経)の亢進。損傷レベルより上の血管拡張は、延髄からの下行性抑制で交感神経性の血管収縮が解除されることによる。その抑制信号は損傷部より下へ届かないため、レベル以下では血管収縮が続く。
  • 症状もレベルで割れる。損傷レベルより上=顔面紅潮・発汗・鼻閉、損傷レベル以下=蒼白・立毛(鳥肌)。全身としては著しい血圧上昇と反射性徐脈、拍動性頭痛。
  • 誘因の第 1 位は膀胱の過伸展(尿の貯留、カテーテルの屈曲・閉塞)、第 2 位は直腸の充満(便秘・宿便)。ほかに褥瘡、きつい衣類や腹帯、陥入爪など。
  • 対応の順序:座位にして頭部を高くする → 締め付けをゆるめる → 血圧を測る → 導尿・摘便で誘因を除去 → 改善しなければ医師へ連絡。
  • 放置すると脳出血・痙攣・肺水腫を起こしうる。施術中に疑ったら施術を中止し、対応と医療機関への連絡を優先する。
比較表
症状の現れ方想起する病態対応の要点
突然の拍動性頭痛と著しい血圧上昇。損傷レベルより上は顔面紅潮・発汗・鼻閉、レベル以下は蒼白・立毛(T6 以上の損傷)自律神経過反射座位・頭部挙上、締め付け解除、導尿や摘便で誘因除去、血圧測定、医師へ連絡
股関節周囲の熱感・腫脹、可動域が徐々に狭くなる異所性骨化無理な他動運動を避け、医師の評価(画像・血液検査)につなぐ
発熱、咳、膿性痰、呼吸困難肺炎(排痰困難による)体位ドレナージ・排痰の援助、早期に医療機関へ
両下肢の突っ張り、間欠的な不随意の伸展痙縮・脊髄自動反射誘因(尿貯留、褥瘡など)の確認、体位・ストレッチの工夫、必要に応じ薬物治療の相談
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