学習トップ / 理由で解く 柔道整復師 / 衛生学・公衆衛生学 ▸ §2 公衆衛生 / QJ25A116
理由で解く 柔道整復師
食後2〜4時間という極端に短い潜伏期と、手指の化膿創をもつ調理人が素手で握ったという状況から、黄色ブドウ球菌による食中毒と判断できる。症状は菌そのものではなく、菌が食品の中であらかじめ作った毒素(エンテロトキシン)によって起こるので、正しいのは2。
黄色ブドウ球菌はヒトの皮膚や鼻腔にごく普通に存在し、化膿した傷にはとりわけ大量に含まれる。素手で握られたおにぎりに菌が移り、菌は食品中で増殖しながらエンテロトキシン(腸管毒)を産生する。増殖と毒素産生には室温程度の温度と時間を要するため、調理後に速やかに冷却されない食品ほど毒素が蓄積しやすい。食べる側が口にするのは菌ではなく完成した毒素であるため、腸管内で菌が増える時間を必要とせず、潜伏期は30分〜6時間(多くは約3時間)と短い。毒素は腸管から迷走神経の求心路を介して嘔吐中枢を刺激するので、下痢や腹痛より悪心・嘔吐が前面に出て、発熱は乏しいか軽度にとどまり、多くは1〜2日で回復する。なお、この「短い潜伏期+嘔吐が主体」という像はセレウス菌(嘔吐型)とも共通するため、原因食品がおにぎりであることだけでは両者を区別できない。本例で黄色ブドウ球菌と確定できるのは、手指に化膿創のある調理人が素手で握ったという、ヒトの皮膚由来の汚染が示されているからである。判断軸は2つに分けて持つとよい。「菌ではなく完成した毒素を食べた」ことが治療の考え方(抗菌薬は効かず補液を中心とした対症療法)を決め、「その毒素が100℃30分の加熱でも失活しない耐熱性である」ことが予防の考え方(加熱では防げない)を決める。
| 病因物質 | 発症のしくみ | 潜伏期 | 主な症状 | 加熱で防げるか | ヒト→ヒト感染と就業制限 |
|---|---|---|---|---|---|
| 黄色ブドウ球菌 | 毒素型(食品内でエンテロトキシンを産生) | 30分〜6時間 | 悪心・嘔吐が主体、発熱は軽度 | 防げない(毒素が耐熱性) | 感染なし |
| セレウス菌(嘔吐型) | 毒素型(食品内でセレウリドを産生) | 30分〜6時間 | 悪心・嘔吐が主体(原因食品は米飯・麺類の作り置き) | 防げない(毒素が耐熱性) | 感染なし |
| ボツリヌス菌 | 毒素型(食品内で毒素を産生) | 8〜36時間 | 眼症状・嚥下障害・弛緩性麻痺 | 防げる(毒素は易熱性) | 感染なし |
| サルモネラ属菌 | 感染型 | 6〜48時間 | 発熱・腹痛・下痢 | 防げる | まれ |
| 腸炎ビブリオ | 感染型 | 8〜24時間 | 激しい腹痛・水様性下痢 | 防げる(真水・低温にも弱い) | 感染なし |
| カンピロバクター | 感染型 | 2〜7日 | 発熱・腹痛・下痢、後にギラン・バレー症候群 | 防げる | まれ |
| 腸管出血性大腸菌 | 感染型(生体内で毒素を産生) | 3〜8日 | 血便、溶血性尿毒症症候群 | 防げる | あり/接触予防策。三類で感染症法の就業制限の対象 |
| ノロウイルス | ウイルス性(感染型) | 24〜48時間 | 嘔吐・下痢 | 防げる(85〜90℃で90秒以上) | あり/接触予防策・吐物処理。五類で感染症法の就業制限は対象外(運用上の就業配慮) |
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