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理由で解く 柔道整復師

QJ25A116 衛生学・公衆衛生学

出典:第25回柔道整復師国家試験(2017)午前 問116
問題
老人会で配られたおにぎりを食べた高齢者から食後2~4時間で悪心・嘔吐、腹痛、下痢を訴える者が多発した。おにぎりを作った調理人は手に切り傷があり、少し化膿しているものの、素手でおにぎりを握ったという。正しいのはどれか。
選択肢
1 抗菌薬の投与が有効である。
2 症状は病原体が産生する毒素による。
3 食品を加熱することにより予防できる。
4 他者に感染させない措置が必要である。
解答
正解2(症状は病原体が産生する毒素による。)
解説

食後2〜4時間という極端に短い潜伏期と、手指の化膿創をもつ調理人が素手で握ったという状況から、黄色ブドウ球菌による食中毒と判断できる。症状は菌そのものではなく、菌が食品の中であらかじめ作った毒素(エンテロトキシン)によって起こるので、正しいのは2。

黄色ブドウ球菌はヒトの皮膚や鼻腔にごく普通に存在し、化膿した傷にはとりわけ大量に含まれる。素手で握られたおにぎりに菌が移り、菌は食品中で増殖しながらエンテロトキシン(腸管毒)を産生する。増殖と毒素産生には室温程度の温度と時間を要するため、調理後に速やかに冷却されない食品ほど毒素が蓄積しやすい。食べる側が口にするのは菌ではなく完成した毒素であるため、腸管内で菌が増える時間を必要とせず、潜伏期は30分〜6時間(多くは約3時間)と短い。毒素は腸管から迷走神経の求心路を介して嘔吐中枢を刺激するので、下痢や腹痛より悪心・嘔吐が前面に出て、発熱は乏しいか軽度にとどまり、多くは1〜2日で回復する。なお、この「短い潜伏期+嘔吐が主体」という像はセレウス菌(嘔吐型)とも共通するため、原因食品がおにぎりであることだけでは両者を区別できない。本例で黄色ブドウ球菌と確定できるのは、手指に化膿創のある調理人が素手で握ったという、ヒトの皮膚由来の汚染が示されているからである。判断軸は2つに分けて持つとよい。「菌ではなく完成した毒素を食べた」ことが治療の考え方(抗菌薬は効かず補液を中心とした対症療法)を決め、「その毒素が100℃30分の加熱でも失活しない耐熱性である」ことが予防の考え方(加熱では防げない)を決める。

✓ 2. 正しい
症状は病原体が産生する毒素による。
黄色ブドウ球菌食中毒は、食品の中で毒素ができあがってから摂取される「食品内毒素型(毒素型)」の代表である。食べた時点ですでに毒素が完成しているため発症までが速く、加熱などで菌が死滅していても毒素が残っていれば発症する。潜伏期の短さ・嘔吐優位・発熱に乏しいという臨床像は、いずれも「菌ではなく毒素を食べた」という構図から一貫して説明できる。
✗ 1. 誤り
抗菌薬の投与が有効である。
症状を起こしているのは食品中で完成した毒素であり、体内の菌を抗菌薬で叩いても、すでに取り込まれた毒素の作用は止められない。治療は嘔吐に伴う脱水を防ぐ補液を中心とした対症療法で、通常は1〜2日で軽快する。とくに本例のような高齢者は口渇の自覚が乏しく体液量の予備能も小さいため脱水に陥りやすいので、水分摂取量と尿量を確認し、経口摂取が進まなければ受診・輸液につなげる。抗菌薬が検討されるのは腸管内で菌が増殖・侵入する感染型の一部であり、毒素型である本例には当てはまらない。
✗ 3. 誤り
食品を加熱することにより予防できる。
加熱すれば菌そのものは死滅するが、ブドウ球菌エンテロトキシンは耐熱性で、100℃30分でも失活しない。つまり加熱は「殺菌」にはなっても「解毒」にはならず、毒素ができた後の加熱では発症を防げない。予防の軸は毒素を作らせないこと、すなわち「つけない・増やさない」である。まず原則として、手指に化膿創がある者は食品に直接触れる調理作業に従事しない(大量調理施設衛生管理マニュアル)。手袋の着用はこの原則の代替手段にはならず、創を覆えば従事してよいということではない。そのうえで、調理に従事する者一般の手段として、使い捨て手袋・ラップ・しゃもじなどを用いて素手で食品に直接触れないようにし、調理前後の手洗いを徹底する。握った食品は速やかに冷却して10℃以下で保存し、早めに食べきる。なお毒素なら一律に熱に強いわけではなく、同じ毒素型でもボツリヌス毒素は易熱性で加熱が有効である一方、セレウス菌嘔吐型のセレウリドはブドウ球菌エンテロトキシンと同様に耐熱性(126℃90分でも失活しない)で加熱では防げない点も、対にして押さえたい。
✗ 4. 誤り
他者に感染させない措置が必要である。
発症するのは毒素を含む食品を食べた人だけで、患者から周囲の人へ直接うつる病気ではないため、隔離のようなヒト−ヒト感染を断つ措置は求められない。ヒト−ヒト感染への対策(接触予防策・手指衛生・吐物の適切な処理)が必要になるのはノロウイルスや腸管出血性大腸菌などである。ただし、そのうち感染症法上の就業制限(飲食物に直接接触する業務の制限)がかかるのは三類感染症である腸管出血性大腸菌感染症・細菌性赤痢・腸チフスなどであり、五類感染症(感染性胃腸炎)であるノロウイルスは感染症法の就業制限の対象ではなく、検便で陰性が確認されるまで直接食品に触れる作業を控えるという大量調理施設衛生管理マニュアル等に基づく運用上の措置である。感染対策と法令上の就業制限は分けて理解しておきたい。本例も「何もしなくてよい」という意味ではなく、同じおにぎりを食べた人の健康状態を確認して受診につなげること、残品や調理器具を廃棄せずに保存して保健所に連絡すること(食中毒を診断した医師には24時間以内の保健所長への届出義務がある)、調理担当者は創が治るまで直接食品に触れる作業を外れることが、原因究明と再発防止のために必要な行動である。
ポイント
  • 潜伏期30分〜6時間+嘔吐が主体なら、黄色ブドウ球菌セレウス菌(嘔吐型)の二択。決め手は原因食品ではなく汚染源で、手指の化膿創・切り傷など調理従事者由来(ヒトの皮膚由来)の汚染が示されていれば黄色ブドウ球菌、チャーハン・ピラフ・スパゲッティなど米飯・麺類の作り置きならセレウス菌嘔吐型を考える。おにぎり・弁当・生菓子といった食品名だけでは両者は区別できない。
  • 食品内毒素型(毒素型)=菌ではなく、できあがった毒素を食べる。だから発症が速く、菌が死滅していても毒素が残れば発症する。この「毒素を食べた」ことが治療の考え方を決める。
  • ブドウ球菌エンテロトキシンは耐熱性(100℃30分でも失活しない)。加熱は殺菌にはなるが解毒にはならず、この耐熱性が予防の考え方(加熱では防げない)を決める。加熱で防げない毒素型は2つ──ブドウ球菌エンテロトキシンと、セレウス菌嘔吐型のセレウリド(126℃90分でも失活しない)。対照的にボツリヌス毒素は易熱性で加熱が有効。
  • 治療は補液を中心とした対症療法で抗菌薬は原則不要、通常1〜2日で軽快する。高齢者は口渇の自覚が乏しく脱水に陥りやすいので、水分摂取量と尿量を確認し、経口摂取が進まなければ受診・輸液につなげる。
  • 予防の原則は「手指に化膿創がある者は食品に直接触れる調理作業に従事しない」(大量調理施設衛生管理マニュアル)。担当を交代する。手袋の着用はこの原則の代替にはならない。
  • そのうえで、調理に従事する者一般の手段として──使い捨て手袋・ラップ・しゃもじ等を用いて素手で食品に触れない/調理前後の手洗いを徹底する/調理後は速やかに冷却して10℃以下で保存し早めに食べきる。発生時は原因食品・調理器具を保存して保健所へ連絡する(診断した医師は24時間以内に保健所長へ届出)。
  • ヒト−ヒト感染はしないので隔離は不要。感染症法上の就業制限がかかるのは三類感染症(腸管出血性大腸菌感染症・細菌性赤痢など)であり、五類のノロウイルスは対象外で、検便陰性まで直接食品に触れる作業を控えるのは運用上の措置である。
比較表
病因物質発症のしくみ潜伏期主な症状加熱で防げるかヒト→ヒト感染と就業制限
黄色ブドウ球菌毒素型(食品内でエンテロトキシンを産生)30分〜6時間悪心・嘔吐が主体、発熱は軽度防げない(毒素が耐熱性)感染なし
セレウス菌(嘔吐型)毒素型(食品内でセレウリドを産生)30分〜6時間悪心・嘔吐が主体(原因食品は米飯・麺類の作り置き)防げない(毒素が耐熱性)感染なし
ボツリヌス菌毒素型(食品内で毒素を産生)8〜36時間眼症状・嚥下障害・弛緩性麻痺防げる(毒素は易熱性)感染なし
サルモネラ属菌感染型6〜48時間発熱・腹痛・下痢防げるまれ
腸炎ビブリオ感染型8〜24時間激しい腹痛・水様性下痢防げる(真水・低温にも弱い)感染なし
カンピロバクター感染型2〜7日発熱・腹痛・下痢、後にギラン・バレー症候群防げるまれ
腸管出血性大腸菌感染型(生体内で毒素を産生)3〜8日血便、溶血性尿毒症症候群防げるあり/接触予防策。三類で感染症法の就業制限の対象
ノロウイルスウイルス性(感染型)24〜48時間嘔吐・下痢防げる(85〜90℃で90秒以上)あり/接触予防策・吐物処理。五類で感染症法の就業制限は対象外(運用上の就業配慮)
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